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2017年11月21日火曜日

左腕より深刻な足腰 稀勢の里5敗目

◇衰えの兆候
 左四つに組み止めたはいいが、もう稀勢の里の膝は伸びていた。右上手も引いて観客に「今日は大丈夫」と思わせた後も、膝が伸び、上体が起きていたために、最後に詰めに必要な力が生まれない。土俵際で宝富士の捨て身の下手投げにばったり落ちた。

 力士の衰えの兆候は幾つかある。尻の肉が落ちる。負ける時に腰から落ちる。上体が起きやすくなる。膝が伸びるのが早くなる。稀勢の里はもともと腰が高くて上体の前傾姿勢が甘いが、今場所はさらにそれが目立ち、足の運びも自信がなさそうだ。負け相撲だけではない。3勝目を挙げた松鳳山戦でも、途中で腰や膝が入りかけている。
 支度部屋では前日同様、質問に「うーん」と繰り返した稀勢の里だが、下半身の衰えは、ブランクのせいだけか。夏場所前の計量で体重が自己最高の184キロだった。初場所前より9キロも増えている。その時は「体は張っている。いい汗をかいている」と言っていたが、引退間際になると体重が増える力士が多い。稀勢の里の肉の付き方を見て案ずる親方もいた。横綱昇進前後こそ左を差し、体を寄せて出るのに腹が役立ったが、その後は体重増と下半身の衰えが負の相乗効果を招いているように見える。

◇出るも休むも地獄
 15日制定着後の横綱皆勤負け越しは1989年秋場所の大乃国、99年秋場所の横綱三代目若乃花の7勝8敗がある。このまま皆勤すれば不名誉な記録を更新しかねないが、休場を負けと見なせば横綱の負け越しは山ほどある。稀勢の里の場合、また休場すれば15日間取り切る感覚を取り戻す機会がさらに遠のくだけでなく、初場所は進退を問われるだろう。
 右の使い方がうまくない稀勢の里が、頼みの左腕を痛めたのは確かに不運だった。本当の回復具合は本人しか分からないが、たとえ元に戻っても今の下半身では苦しい。
 育ての親、元横綱隆の里の鳴戸親方が健在だった頃は、稽古の最後に全員を並ばせ、順番に号令を掛けながら四股を踏ませた。途中、声が小さい者でもいれば最初からやり直し。稀勢の里にとって窮地脱出への細い道は、もう一度体をいじめて絞り直すしかないのではないか。こうなってしまった横綱と全力で稽古をしてくれる力士はいないだろうが、下半身の鍛錬は一人でもできる。
 大横綱北の湖が晩年に休場が続いて批判された頃、一方でスポーツ誌が「甦れ! 北の湖」の特集を組むなど、復活を望む声も起きた。相撲ファンは偉大な功績と誠実な土俵態度を見てきたからだが、憎らしいほど強いといわれた北の湖に寄せられた温かい声援を、本人はどう思ったか。引退後に当時の心境を尋ねると、唇の端をゆがめる独特の苦笑いをして答えた。「横綱はね、同情されたら終わりですよ」
 日馬富士は暴力問題の処分次第では、現役を続けるのが困難になりそうだ。鶴竜も崖っぷち。先場所あたりから「来年の今頃は横綱が1人になっているかも」と言う親方が多いが、「来年の今頃」どころではなくなった。
(時事ドットコム編集部)

 衰えか、練習不足か、勝てなければ引退だろう。

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