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2020年8月16日日曜日

日本ハム・渡邉諒の異名“直球破壊王子”の真実を考えてみた

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文春オンライン

 当方は「直球破壊王子」警察である。目下、渡邉諒を捜査中だ。いまやファイターズの主力に成長した2013年ドラ1、渡邉諒選手に「直球破壊王子」の異名がついた。過去、スポーツ界には「ハンカチ王子」「ハニカミ王子」「ひねり王子」etc.と様々な王子が林立した。それまでの王子界はどうだったかというとオスカー・ワイルドが「幸福な王子」を書いた程度ではなかったろうか。

本人は「王子」を否定しているが……

「直球破壊王子」の発端は日刊スポーツ紙であるという。コロナ禍でズレ込んだ6月の開幕直前、同紙は各チームの開幕スタメンを予想し、野球人気を盛り立てようという企画を立てた。その際、選手らの異名を担当記者さんが考えたそうなのだ。渡邉諒の特徴は何かというと「ストレートに滅法強い」ことだ。そこで「直球」を「破壊する」「王子」のイメージが誕生した。漢字6文字。「ハンカチ王子」「ハニカミ王子」等とは違って字ヅラがゴツゴツしている。音も「チョッキュウハカイ」と金属音が二度も出てくる。ガギグギガーンと破壊しそうだ。そんな王子。前代未聞だ。

 それがファンの間で浸透していった。イメージが面白かったのだ。「直球を破壊してくれ~」の応援メッセージが札幌ドームのビジョンに躍り、有観客試合になってからは「直球破壊王子」の応援ボードが掲げられるようになった。日刊スポーツのスマッシュヒットだ。2020年シーズンを彩る新ネタだ。開幕以来、もうひとつエンジンがかからないでいたファイターズに素晴らしい「売り」を提供してくれた。  が、当方は「直球破壊王子」の真実を捜査中なのだ。まず、考えてみたい。「王子」って何だ? 渡邉諒が「ストレートに滅法強い」ことは事実だ。それを「直球破壊」と呼んでみたことはわかる。が、「王子」だろうか? 「直球破壊」「王子」だろうか?  この件に関しては日刊スポーツ・中島宙恵記者が8日付の記事で渡邉諒本人のコメントを紹介している。傑作なのでぜひご覧いただきたい。 「(前略)『浸透してるんだな』と思ったんすけど…“王子”では、ないっすね」(前略はえのきど)  本人は「王子」を否定している。否定した上で、「真っすぐが来なくなっちゃうじゃないですか」「直球破壊選手とかで、いいんです」等の発言をしたそうだ。  

 直球破壊選手。これはもう曖昧だ。「ラーメン注文客」くらいの匿名性だ。仮に直球破壊選手が渡邉で、ラーメン注文客が山本だとして、その逆でも誰も気にしない。そう考えるとやっぱり「王子」は外せないのだ。スポーツ選手のキャラを立てるとき、ある時期、メディアは「怪物」性を強調した。その次は「貴公子」性を強調するようになった。渡邉諒は(本人が否定しようとも)「直球を破壊する」貴公子なのだ。何てったってドラ1だもん。断然、「王子」部分は必要。 

なぜ「直球破壊」と表現したのか

 次に仔細に見ていきたいのが「直球破壊」部分だ。「直球」はいいだろう。渡邉の責任でなく、相手投手がフォーシームなのだ。が、「破壊」してるのだろうか? 例えばの話、8日札幌ドームの西武戦、2回裏、松本航から左中間スタンドにホームランを放っている。あのホームランボールが真っ二つに割れ、芯のコルクに巻き付けた糸がほつれていたというような事実があるだろうか? ないだろう。それではなぜ日刊スポーツは渡邉の一打を「直球破壊」と表現したのか?  それはこういうことではないだろうか。強く叩くイメージ。松本航のストレートを仕留めた弾丸ライナーのホームランを思い返してほしい。ホームランボールには様々な質がある。中田翔のホームランはバットに乗っけて運ぶイメージだ。高く舞い上がる。ホームラン打者はボールの下側を叩いて、上昇回転を与えるそうだ。  に対して(本質的には中距離砲の)渡邉諒は真っ芯を打ち抜く。ハードヒット。ホームランボールは弾丸ライナーになる。「ヒットの延長線上にホームランがある」というやつだ。栗山英樹監督は渡邉の将来像を「長嶋さん」と喩えたことがある。勝負強くて華のある、最強の中距離砲をイメージしたのだ。

「直球破壊」についてNHK解説者の宮本慎也氏が興味深い指摘をしていた。「それは野球界では、将棋の『香車』の駒に喩えてキョウスと呼ばれてましたね。まっすぐしか打てないということで『バッター、キョウスキョウス!』と野次が飛んだり。今でも使われてると思いますよ」。文春野球コラムの熱心な読者なら高森勇旗さんの秀逸コラム 『ナイスアイ! 槍! 地獄! ……プロ野球選手の掛け声の意味、わかりますか?』 に登場した「槍!」を連想すると思う。 「やり、と読みます。通常は、『槍槍!』と、2回続けて出します。ストレートにめっぽう強いバッターに対してかける言葉。ところが、変化球にめっぽう弱いバッターにかけるヤジとして使う場合もありますから、使用は控えましょう。一本槍から連想されている言葉と推測されます」(同コラムより、高森勇旗氏)  まぁ、「キョウス」も「槍」もグラウンドレベルの野次である。「こいつ直球だけは強いぞ」という仲間内の確認の符丁というか。どちらも2回言うらしい。野次だからディスってるところがある。「変化球投げとけばアンパイ!」というような。  僕は「直球破壊王子」が「キョウス王子」や「槍王子」でないところに注目したいのだ。それはプロ選手の符丁が一般ファンに伝わりにくいというだけじゃないと思う。いちばんの違いは「直球破壊」にディスり要素が一切ないことだ。そもそも渡邉諒は「変化球投げとけばアンパイ!」の選手ではない。12日ロッテ戦の解説をした宮本慎也氏は「渡邉諒=キョウス」ではないことに気づき、試合後半「でも、変化球もしっかりヒットしてますからね」とトーンを変えていた。

「直球破壊王子」が連れてきた物語

 ここまでお付き合いいただいた読者には、僕が「直球破壊王子」をめちゃめちゃ気に入っているのがバレバレだろう。すっごい嬉しいのだ。渡邉諒という、これから一皮剥けて本当のスターになろうという選手に最高の「売り」を用意してくれた。不思議なもので、言葉はそれが発せられた時点では誰も思いつかなかったような物語を連れてくる。「直球破壊王子」が連れてきた物語はこうだ。  8日札幌ドーム西武戦、7回裏2死満塁。この回、3連打で3点返して、スコアは5対6、あと1点で追いつく。マウンド上には西武の新加入リリーバー、ギャレットがいる。この剛腕ギャレットこそ、NPB史上指折りの火の球投手なのだ。初球は158キロ、インハイに抜けるボール。2球目、インサイド158キロ、詰まってゴロのファウル。西武の外野は前目のポジション取り。渡邉諒は右手のグリップをいったん開いて構える。3球目158キロ空振り。べらぼうに速い。追い込まれた。  4球目は162キロ、外角に外れる。ついに160キロ超えだ。5球目、161キロバックネットへファウル。6球目、159キロレフトポールを大きく逸れるファウル。集中が高まって渡邉がすさまじい顔をしている。ギャレットはタフガイの表情。場内の電光掲示板に「直球破壊王子様、お願いいたします」の文字。  7球目、161キロ外角に外れる。カウントはついに3ボール2ストライク。もしかして押し出しで同点か。ここまでギャレットは真っ直ぐしか投げてない。渡邉も真っ直ぐしか待ってない。8球目、160キロ1塁側内野スタンドにファウル。9球目、160キロ直球破壊した。打球は三遊間を抜ける、2点タイムリー。スコアは大逆転、7対6。1塁ベース上で拳を突き上げ、ガッツポーズを繰り返す渡邉諒。9球粘って「直球破壊伝説」を仕上げた。僕は息を止めて見ていて、窒息死する即(すんで)のところでプハァーッだ。  連想したのは伊良部秀輝vs清原和博だ。これでもかと真っ直ぐを投げ続け、バックネットにファウルチップを繰り返し、ついにはセンターバックスクリーン直撃か空振りの三振。意地と意地がぶつかり合った平成の名勝負。僕なんかハム戦関係ないのにわざわざ見に行ったもんなぁ。あれに負けないド迫力対決が自分のチームで見られる幸せ。ギャレットは次回、「直球破壊王子」を目の敵にしてくるだろう。もう、今から楽しみで仕方ない。  渡邉諒は「直球破壊王子」で売り出した。パの速球投手は皆、意識してくるだろう。ロッテは早く佐々木朗希を出してこないかなぁ。これがなべりょの野球渡世だ。最高最高! 日刊スポーツ、本当にありがとう!! ◆ ◆ ◆ ※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/39269 でHITボタンを押してください。

えのきど いちろう

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直球破壊王子はともかく、渡邉諒と対戦投手との直球勝負を楽しみたい。


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