安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が黄昏を迎えている。足元の深刻な不況は新型コロナウイルスの感染拡大が直接の原因だが、戦後最長を誇った景気拡大が幻となった上、既に後退局面に入っていた令和元年10月に消費税の増税を強行した“判断ミス”も内閣府研究会の判定で裏付けられた。自民党総裁の任期満了を来年に控え、消費税減税を大義名分に早期の衆院解散に踏み切るのではとの臆測もくすぶっている。
「アベノミクス景気の“山”がこう判定されたことは残念だが、政府としての景気判断は間違っていなかったと今も確信している」 西村康稔経済再生担当相は7月30日、内閣府の有識者研究会が平成30年10月を転換点として景気が後退局面に入ったと認定した後の記者会見でこう指摘した。 政府は31年1月時点で、第2次安倍政権が発足した24年12月に始まった景気回復局面が「いざなみ景気」(14年2月~20年2月、73カ月間)を抜き「戦後最長になったとみられる」(当時の茂木敏充経済再生担当相)と指摘していた。判断のズレは明白だが、西村氏はむしろ研究会の判定方法に問題があったとして今後見直す考えを表明。「景気判断の一貫性に疑問が生じる」と懸念する声もある。 ■金融緩和以外は失速 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間活力を喚起する成長戦略という「3本の矢」をひっさげて華々しく登場したアベノミクスは、歴史的円高や高い法人税率など当時の企業が直面した「6重苦」を改善し、景気を拡大軌道に乗せた。 特に、日本銀行が25年4月に資金供給量を2年で2倍に拡大する「異次元の金融緩和」を打ち出したことで為替相場は円安に反転。政権発足前に1万円を割り込んでいた日経平均株価が2万円台に上昇したほか、求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率も1倍を大幅に上回る水準に回復し、逆に人手不足が懸念される売り手市場になった。 ただ、金融政策とは裏腹に、財政政策と成長戦略という残り2本の矢は伸び悩んだ。 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長によると、公共投資は政権発足直後に実施した10兆円規模の大型経済対策で急拡大したものの、30年度までの6年間の伸び率は年平均0.3%と、その後はむしろ減少傾向になったと指摘。国土強靭(きょうじん)化やコロナ対策で現在は財政支出が拡大しているが、「少なくとも景気が後退局面に入る平成30年10月までは実態として緊縮気味だった」と分析している。 成長戦略は「地方創生」「一億総活躍社会」など看板を次々と掛け替えて目新しさをアピールしたが、名目国内総生産(GDP)600兆円をはじめ政策目標の未達が目立つ。少子高齢化による人口減や東京一極集中による地方経済の疲弊、デジタル化の遅れといったこの国の宿痾(しゅくあ)を乗り越えられないまま、次の景気後退の波に飲み込まれた。 ■欧州ではコロナ減税 コロナ禍による戦後最大の経済危機を乗り越えるため、政府は事業規模230兆円超という空前の補正予算を編成。景気が底を打つ“谷”は緊急事態宣言が解除された5月だったとの見方もある。ただ解除後の感染再拡大でまた下押しされるのは避けられず、回復の流れが続くかは不透明だ。 総務省が発表した6月の家計調査(2人以上世帯)は1世帯当たりの消費支出が27万3699円で、物価変動を除いた実質で前年同月比1.2%減だった。過去最悪の減少幅を記録した5月(16.2%減)に比べ改善したとはいえ、依然として低水準だ。感染拡大を防ぐため人の移動を抑制せざるを得ない現状では、消費のV字回復は難しい。 そこで自民党内で取り沙汰されるのが、景気刺激に向けた時限的な消費税減税だ。 英国やドイツなどは、コロナ禍で既に日本の消費税に相当する付加価値税の減税に踏み切った。26年11月の衆院解散では消費税率10%への増税を先送りするか否かが総選挙の大義名分となった経緯があり、景気後退期に引き上げてしまった税率を下げるなら、十分な口実になるというわけだ。 ただ、安倍首相は月刊誌「中央公論」9月号のインタビューで消費税減税論には否定的な考えを表明している。また、英国はリーマン・ショック直後の2008(平成20)年末に付加価値税を時限的に引き下げたが、10年1月に元の水準に戻し、翌年にはさらに増税している。仮に日本で減税が実現したとしても、補正予算を含むコロナ対策の莫大(ばくだい)な財政支出を回収するため終息後に東日本大震災の復興増税のような増税とセットになる可能性がある。
麻生太郎財務相は「財政を放漫なまま置いておくわけにはいかない。将来世代への責任を考え、持続性を確保する必要がある」と指摘する。ポストアベノミクスの経済政策は既に増税の影がちらついている。(経済本部 田辺裕晶)
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消費税の減税よりも、新型コロナで収入が減少した人に、大規模な資金給付が必要と思います。
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