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2018年9月22日土曜日

<健康>「低炭水化物ダイエットは寿命を縮める」は本当か

 穀物などから摂取するカロリーをたんぱく質や脂肪に置き換える「低炭水化物ダイエット」。これまでに、短期間で見ると減量効果が示される一方、長期的な健康や死亡率への影響については相反する結果が報告されています。最近米国の研究チームが、このダイエットで死亡率が高まる可能性とともに、置き換えるたんぱく質や脂肪の種類で死亡率への影響が異なるという研究結果を医学誌で報告しました。この報告を参考に、炭水化物やたんぱく質、脂質の食べ方について、米ボストン在住で内科医の大西睦子さんが解説します。【毎日新聞医療プレミア】

 低炭水化物ダイエットについて、ハーバード大学医学部のスコット・ソロモン教授らの研究チームが、2018年8月16日の医学誌「ランセット・パブリックヘルス」に低炭水化物ダイエットで死亡率が高まる可能性を報告しました。また研究者らは、低炭水化物ダイエットで、炭水化物をどんなたんぱく質や脂肪に置き換えることが死亡率に影響するかを評価しました。

 ◇長生きには適度な量の炭水化物が一番良い

 ソロモン教授らは、「コミュニティーにおけるアテローム性動脈硬化症リスク(ARIC)研究」という疫学調査に参加する1万5428人(45~64歳)を対象に、まず炭水化物の摂取量と全ての原因による死亡率との関連性を調べました。

 参加者は、研究の開始時と6年後に、消費した食べ物や飲み物の種類に関するアンケートに答えます。それに基づき、研究者らは参加者の炭水化物、脂肪、およびたんぱく質から摂取したカロリーの割合を推定しました。

 約25年間のフォローアップ(追跡期間)中に、6283人が死亡しました。死亡した人たちについて詳細に検討したところ、炭水化物の摂取量と平均余命の間に、U字形の関連性を認めました。つまり、炭水化物の摂取量が少ない(炭水化物からの摂取カロリーが全体の40%未満)人と、炭水化物の摂取量が多い(同70%以上)人は、中程度の摂取(同50~55%)の人と比較して、より高い死亡リスクがありました。

 この調査結果に基づき、研究者らは中程度の炭水化物を摂取した人の50歳からの平均余命を33年(寿命83歳)と推定。それに比べて、炭水化物の摂取量が少ない人は平均余命が29年(寿命79歳)、多い人は平均余命が32年(寿命82歳)と、いずれも短くなりました。

 ただし、食事の調査が試験開始時と6年後にのみ実施されただけのため、食事パターンが追跡期間の25年間のうちに変わった可能性があること、そしてその変化によって炭水化物の摂取と寿命との関連性が弱まる可能性があることを考慮すべきだと研究者らは考えています。

 研究者らはさらに、ARICを含む八つの疫学調査から、北米、ヨーロッパ、アジア諸国の43万2179人のデータをメタ解析しました。するとここでも、中程度に炭水化物を摂取した人の寿命は、炭水化物の摂取量が少ない人や多い人より長くなりました。

 ◇たんぱく質や脂肪の種類に注意

 低炭水化物ダイエットといっても、置き換えるたんぱく質や脂肪の種類はさまざまです。この調査では、炭水化物の代わりに動物由来のたんぱく質や脂肪に置き換えた人は、牛肉、子羊、豚肉、鶏肉、チーズを多く摂取し、果物と野菜の摂取量が少なくなっていました。一方、植物由来のたんぱく質や脂肪に置き換えた人は、野菜の摂取量が多くて果実の摂取量は少なく、動物由来のたんぱく質や脂肪と置き換えた低炭水化物ダイエットをする人と比較して、多価不飽和脂肪酸の摂取が多く、飽和脂肪酸の摂取量が少ない傾向にありました。

 そこで研究者らは、低炭水化物ダイエットで置き換えるたんぱく質や脂肪の種類による死亡率への影響を調べました。すると動物由来のたんぱく質や脂肪を消費する低炭水化物ダイエットは、植物由来のたんぱく質や脂肪を消費する低炭水化物ダイエットに比べ、早期死亡のリスクがより高まりました。

 つまり、低炭水化物ダイエットといっても、置き換えるたんぱく質や脂肪で、死亡率への影響は異なるのです。この研究ではメカニズムは明らかになっていませんが、研究者らはその理由として、バランスの良い食事に比べて低炭水化物ダイエットでは、体の働きを調整する生理活性物質である脂肪酸、食物繊維、フィトケミカル(植物由来の化合物)、ヘム鉄、ビタミン、ミネラルなどの摂取量が異なることを挙げています。また、仮説として低炭水化物ダイエットの長期的影響が生物学的な老化および酸化ストレスを刺激することも考えられています。

 ただし動物由来のたんぱく質には、私たちが体内で作ることができない必須アミノ酸が豊富に含まれ、植物由来のたんぱく質に比べて、体が利用しやすいという利点があります。ですから、動物由来のたんぱく質を排除するのではなく、豆類、ナッツなど、食物繊維、ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富な植物由来のたんぱく質を多く含む食品をベースにして、動物由来のたんぱく質も適量をバランスよく摂取することをお勧めします。

 ◇炭水化物の種類にも注意を

 さて、今回の調査では、炭水化物の詳細は不明です。しかし、ドーナツ、炭酸飲料、カップラーメンといった精製された炭水化物や砂糖を使った加工食品から摂取する炭水化物と、全粒粉、果物、野菜、豆などの栄養価の高い食品から摂取する炭水化物では、ビタミン、ミネラル、フィトケミカルなどの含有量がまるで違います。

 米国内では、00年以降、栄養に関する政策や経済、食品の加工方法が変わり、それが多くの人に社会経済的な影響を与えている可能性が指摘されています。ハーバード公衆衛生大学院の研究者らは14年に、米国の栄養の質に関する調査結果を米国医師会雑誌に報告しています。

 20~85歳の2万9124人を対象にした1999年から2010年までの米国国民健康栄養調査によると、米国では食物の品質が近年着実に向上しており、特にトランス脂肪酸の摂取量が減少しているといいます。ただし、米国人の全体的な食事の質は向上していませんでした。

 背景には所得や教育に根差した食事の質の格差があり、1999年から2010年までの調査でも拡大し続けています。例えば社会経済的地位が高い人は、より多くの果実や全粒穀物、ナッツ、豆類、および多価不飽和脂肪酸をとり、砂糖入り飲料をほとんど飲まないという食生活の習慣を持つ傾向があります。一方、低い人はファストフードなどを利用する機会も多く、野菜を食べず、赤身肉や加工肉を食べる傾向があるのです。

 みなさんの食生活はいかがでしょうか? 適正な体重を保つことは健康の基本ですが、間違った方法での体重コントロールが命を縮めることもあります。極端な方法をとることなく、質の良い炭水化物、たんぱく質や脂肪をバランスよく摂取することを心がけてください。
(毎日新聞)

 炭水化物の代わりに、魚や野菜でしょう。

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