「そこはかとないエロスが漂う雰囲気を」
――平安時代の男女関係はどのように描かれるのでしょうか?
大石:キスシーンもあるし、胸キュンなところもいっぱいありますが、日曜日夜に放送のドラマですので直接的な表現ではなく、そこはかとないエロスが漂う雰囲気を出したいと思っています。天皇とっては後継者としての子孫を残すことが、政と同じぐらい大事であり、性的行動が間近にある感じを作品の中で見せています。
――劇中では紫式部が執筆する『源氏物語』が描かれないことが明らかになっていますが、そのことについて詳しく教えてください。
大石:『源氏物語』は一見すると男女が寝たり起きたりする物語が中心の作品に見えますが、その行間には人生哲学と文学論のようなものが込められていて、物語としての面白さと非常に深い哲学的なものが両方流れているということが、世界でも高く評価されている理由だと思います。私たちチームのやりたかったことは、紫式部が、どういった生い立ちの中であの奥深い物語が書ける人物へと成長していったのかを描くことなので、『源氏物語』の中身そのものは描かないです。ですが、例えば道長とまひろの出会いのシーンは、『源氏物語』のシーンを彷彿とさせますし、この先にも源氏物語をよく知っている人には分かるシーンがたくさん出てきます。紫式部に起きた人生の出来事が、のちに作品に関わっていったかもしれないというような散りばめ方をしています。
――資料が少ない中で、フィクションを描いていく生みの苦しみというのは感じていますか?
大石:私は常にオリジナル脚本を書いてるので、そこに特別な気概を持ったりはしません。歴史の資料を読むことは割と楽しいと思いますし、この仕事を引き受けなければ1000年も前のことなんて知らなかったなと思うと、そういう意味ではやって良かったと思います。
――例えば『どうする家康』では物語の山場が分かりやすくイメージがつきますが、『光る君へ』でのピークになりそうな場面はどこになりそうですか?
大石:『どうする家康』などの戦国時代を題材にした作品では、長篠の戦いがあって、関ヶ原の戦いがあってといった史実上の事件を多くの視聴者が知っていますが、今回は平安オタクの人しか知らない史実も多いので、どこがピークになるかは正直、やってみなければ分からないですね。でも、先が分からない面白さを私たちが逆手に取らなかったら、勝負はかけられない。やってみなくちゃ分からないけれど、きっと面白いと思うし、視聴者の皆さまが毎週観たくなるように頑張っています。
――大石さんがこの『光る君へ』を通して一番伝えたいことはなんですか?
大石:平安時代の印象や既成のイメージを変えたいというのは一つあります。紫式部という文学者は権力批判の考えの強い人で、文学というのは本来そういうものですし、自己否定の精神もなければならない。紫式部という人物は「きっとこうだっただろう」と、私たちが描いたドラマを中学生たちが観て、教科書に載っている人とは違う、紫式部はこういう人だったのかな、と想像してくれたら素敵だなと思います。
――『源氏物語』を書いた紫式部を、大石さんはどのように見ていますか?
大石:『源氏物語』はハーレクイン・ロマンス的な面白さと、深い哲学的なものが両方流れているところが、世界でも未だに高く評価されている理由だと思います。そういった奥深い作品を書いたが故に、紫式部はユネスコが選出する「世界の偉人」に日本人で初めて選ばれるなど、世界的に評価されていると思うんです。そういう意味では日本が誇る作家だと思うので、これを機に『光る君へ』も世界配信をしていただいて、紫式部をもっと知っていただきたいなと思います。
――平安時代はこれまでの大河ドラマでもあまり描かれてきていない時代です。大石さんは『光る君へ』をどのようなファンの方々に観てもらいたいと考えていますか?
大石:当然、大河ドラマを必ず観る人たちにも見ていただきたいと思っています。それと韓流ドラマやラブストーリーの好きな人たちにも見ていただきたいですが、私は面白いものを作れば、子供も大人も観てくれると思っています。これまでの大河ドラマは武士を中心に描いたものが多く、その時代だけがドキドキハラハラして素敵で潔かったのかというと、そうでもないと思うんです。平安貴族は血を見ることは汚れだと思っていて、死刑の執行もない時代。宮廷の中で偉くなりたかったら、誰かの足を引っ張ったり、権謀術策で誰かを失脚させたりという、現代にも通じることがあるんです。山崎豊子さんの『華麗なる一族』のように、藤原家の中でも権力闘争が行われていて、考え方の違う藤原三兄弟が傷つけ合いながら偉くなっていって、兄二人が亡くなり、道長が頂点に上り詰める。見慣れた戦はないんですけど、人間の葛藤、足の引っ張り合いは同じぐらいにスリリングであると思っています。
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当時も格差社会で、位階が五位以上が平安貴族のようです。
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