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即刻、その職を辞していただきたい
支持率を大きく下げて、ようやく立ち止まる決心がついたようだ。 菅義偉首相は12月14日、GoToトラベルを28日から1月11日まで、全国一斉に停止すると表明した。追い込まれて、その場しのぎの対応を繰り返す。これを世間では「後手後手」と呼ぶ。 政治には早い状況判断が大切だが、菅首相が口癖のようにいう「スピード感」は、どこにいったのだろう。キャンセルが殺到し、準備していた旅行・宿泊業も対応に追われた。 コロナ禍は第3波が押し寄せ、新規感染者数は過去最多を更新している。GoToを続ければ医療が崩壊し、いずれ経済もダメになることはわかりきっている。冬場に感染者数が増えることは、菅首相が総裁選を戦っていた夏の時点ですでに予想されていた。だからこそ、新政権はGoToに頼らない経済対策を、迅速かつ綿密に練り上げる必要があった。 そして、菅首相には十分、その時間があった。だが、何もしなかった。 「皆さん、こんにちはガースーです」。 12月11日午後、ニコニコ動画の会見に出た菅首相は冒頭、薄ら笑いを浮かべながらこう切り出した。「ガースー」とは、菅(すが)を逆さにテレビ業界用語っぽく読んだもので、以前からネットを中心に使われてきた呼び方だ。 本人は「パンケーキ好き」と同じ路線で、「ネットにも理解のある、チャーミングな令和オジサン」を演出したつもりだったのだろう。だが、そんな小細工を今は誰も欲していない。スベって気まずくなった空気を取り繕うように、アナウンサーの笑い声だけが響き渡っていた。 忘れないで欲しい。菅首相がニヤニヤとかわいさをアピールしたこの日、亡くなったコロナ感染者は40人強。隔離され、今際(いまわ)の言葉を交わすこともできなかった遺族は、どんな思いでいるだろうか。 東京都医師会の尾崎治夫会長はTBSテレビの番組で「医療者も患者もかなり苦しんでいる状況の時、一国の総理が笑顔で冗談。リーダーとして納得できない」と怒りを露わにした。1日判断が遅れれば、小学校のクラス1つ分の命が失われる計算だ。さらにコロナの犠牲者は拡大し続けるだろう。 菅首相の判断力・共感力の欠如は為政者として致命的で、支持率下落も当然だ。ところが、ニコニコの会見を見れば、菅首相に危機感がないことは明らかだ。「なんとしても感染拡大を防ぎたい。地方自治体と連携しながら取り組んでいる」といいながら、GoToトラベルの停止の可能性を尋ねられると、「まだ考えていません」ときっぱり否定。 理由として挙げたのは「(コロナ感染症対策)分科会で、移動については感染(リスクが)低いとかつて提言してもらっている」とのんびり構えていた。 実際は、提言をした当の尾身氏は11月20日の時点で「GoToトラベルは早急に見直しをしてほしい。政府の英断を心からお願いしたい」と訴えている。さらに12月11日の会見でも「今まで以上のリーダーシップを持ち、先手を打って対応してほしい」と菅首相に翻意を求める意見を出し続けていた。 こうした専門家からの意見を1ヶ月近くも無視し、状況が深刻化する前の「リスクが低い」の言葉を都合良く使い続けている。ここに菅首相の本性が見える。あとから「リスクが低いといったではないか」「私は悪くない」と逃げるために、この言葉を切り取っているのだ。 感染拡大がステージ3に入っているとされる東京、愛知、北海道は医療崩壊の危機に瀕している。愛知では病床の利用率が8割を超えた。旭川厚生病院では救急含め、予約以外の外来診療を休止。他の医療活動にまで影響を与えている。 病院はどこも赤字だ。看護師たちは不十分な待遇で過酷な労働にあたっている。家族含めて周囲から差別される事態もあるという。 大阪市の看護師とみられる医療従事者が「医療崩壊一歩手前と言われていますが、市街への搬送は当たり前の状況で、京都、兵庫へ搬送する。と言った例も出てきています」「府外へ搬送している時点で医療崩壊していると言えるのではないでしょうか。関西全体がそのような状態になったら、助かる命も助かりません」と悲痛な訴えをツイートし、広く読まれた。 2500の病院が加盟する日本病院会(相沢孝夫会長)も「このままでは爆発的な拡大に繋がりかねない。医療従事者の心身の疲弊は限界にある」との声明を発表している。 菅首相は尾身氏が「英断」を求めてから1ヶ月近くすぎてようやく、2週間先からの一時停止を決めた。12月前半だけで500人近くがコロナで亡くなったが、尾身氏の提言を受けてすぐに判断していたら、このうち何人かは助かったのではないだろうか。 判断の遅れはその後、何倍にも増幅されて影響がでる。医療従事者は給与やボーナスが減らされ、退職者が相次ぐ中で、病院への経済的な支援は待ったなしの状況だが、あまりに支援が手薄だ。 経済対策をみてみよう。第2次補正予算では、予備費から出す3700億円のうち3100億円をGoTo延長に回すことが決まっている。第3次補正予算の規模は73.6兆円。一方、このうち「3本柱」の一つのはずのコロナ対策にはわずか5.9兆円。他の2本は、コロナ後の経済構造の転換18.4兆円と、国土強靭化の5.6兆円にのぼる。経済構造の立て直しも、国土の強靱化も大切なことはわかる。 だが、健康な人間による経済活動があって始めて成り立つのではないか。コロナに感染して亡くなった人は二度と、働くことができない。ましてや旅行も食事もできないのだ。 毎日新聞が12月13日に報じた世論調査の結果では、菅政権の支持率は前回の57%から40%へと急落。不支持は49%で支持を上回った。コロナ対策は62%が「評価せず」。自民党内からも「何をやっているんだ」と批判の声が出始めている。「パンケーキおじさん」、「令和おじさん」「戦略家で勝負師」などと散々持ち上げてきた一部メディアも、コロナ対応のまずさをうけ、政権批判を始めた。 国民感情をさらに逆撫でしたのが、GoTo一斉停止を発表した直後の夜の二階俊博幹事長やソフトバンクの王貞治休団会長らとの8人会食だ。しかし、政府の分科会は、「5人以上の飲食では感染リスクが高まる」と注意を促し、11月は、首相自身も「GoToイートについては、原則4人以下での飲食を知事に検討するようにお願いした」と明言。 12月11日には、分科会が、忘年会や新年会は、「普段から一緒にいる人と少人数で開催を」と求めていた。 にもかかわらず、である。アベノマスクなどコロナ禍対応のまずさを散々指摘された安倍晋三前首相でさえ、コロナ感染拡大後の3月中旬から3ヶ月間は、夜の会食を控えていた。少人数の会食を求めながら8人での会食。しかも、菅首相が国民に呼びかけていた「マスク会食」ではなかったという。 コロナを甘く見過ぎているし、リーダーとして示しがつかない行動だった。 会食が一斉に報じられると、「首相は必要な注意払っている。バランスの中で個別に判断することが重要」(加藤勝信官房長官)、「一律にだめと申し上げている訳ではない」(西村康稔経済再生担当相)などと、政府側は火消しに追われた。 菅首相自身が「国民の誤解を招くという意味において、真摯に反省している」と謝罪する展開に。しかし、世論の批判が収まる気配はない。そもそも誤った行動をしたのは菅首相であって、国民に瑕疵はない。 約3年にわたり、官房長官時代から菅首相を見続けてきた。一旦、こうだと決めるとひたすら我を通す悪い癖が、そのまま出ていると思う。 その証拠に年末の全国GoTo一斉停止を発表した直後12月14日のぶら下がりでは、記者から「GoToトラベルに感染拡大のエビデンスがないとの認識が変わったのか」と聞かれると、菅首相は「移動によって感染は拡大しないと、(分科会の)提言もある。そこについては変わりません」と従来の見解を繰り返した。 結局、その頑迷さは筋金入りで、菅首相の「物差し」は自身のメンツと政治的影響力をいかに維持するかどうかだけなのだ。専門知識を持つ研究者や学問、科学的な知見を軽視するのは、日本学術会議からの推薦者の任命拒否問題と同根だ。 高齢者の重症化率の高さが指摘されても、菅首相自身は自分のこととは受け止めない。いつでも最新の医療を受けられる身分だから、無症状者から感染するリスクや庶民が抱く恐怖なぞ、わからないだろう。 いまの与党の政治家に「有能な働き者」までは求めないが、「無能な働き者」は即刻、その職を辞していただきたい。冷静に思いだそう。菅首相は永田町の論理で自民党の総裁になっただけで正統性はない。 国政選挙の洗礼も受けていないではないか。私たちにできる「自助」は、駄目な政権を支持せず、次の選挙で与党の政治家に投票しない、というやり方しかない。 ■望月衣塑子(東京新聞記者) 1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東 京・中日新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件 を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をス クープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。東京地裁・高裁での裁判を担当 し、その後経済部記者、社会部遊軍記者として、防衛省の武器輸出、軍学共同な どをテーマに取材。17年4月以降は、森友学園・加計学園問題の取材チームの一 員となり、取材をしながら官房長官会見で質問し続けている。著書に『武器輸出 と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著、あけび 書房)、「THE 独裁者」(KKベストセラーズ)、「追及力」(光文社)、「権力 と新聞の大問題」(集英社)。2017年に、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励 賞を受賞。二児の母。2019年度、「税を追う」取材チームでJCJ大賞受賞
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もはや何をしても、菅政権とコロナ感染拡大が、手遅れかもしれない。
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