◇オールスター戦 ア・リーグ5―2ナ・リーグ(2021年7月13日 デンバー) クアーズ・フィールドを埋めた観衆は4万9184人。ファンはビールを手に歓声を上げ、ハイタッチで歓喜する。マスク姿の人はほとんどいない。緊急事態宣言下の東京からテレビで見る連日の光景は、まるで別世界。しかし、米国も1年前は静寂の中で球音だけが響いていた。 2年ぶりに開催された「ミッドサマー・クラシック(真夏の祭典)」。中心にいたのは大谷翔平だ。なぜ、本場のファンがそこまで熱狂するのか。おそらく単純なことだろう。本塁打競争で500フィート(約152メートル)超えの特大弾を放ったかと思えば、翌日は1番打者に入り、マウンドでは100マイル(約161キロ)の速球を投げ込む。そんな選手は100年間いなかったからだ。 MLBは2000年代からの右肩上がりの人気に陰りが見えていた。そこに来て、昨季はコロナ禍でシーズン60試合制に短縮。収入減で経営が苦しいオーナー側と年俸を守りたい選手会による見苦しい労使交渉は、野球ファンを失望させた。今季は粘着物質騒動も起きた。どこか息苦しさや閉塞感を抱いていたファンが、二刀流で躍動する大谷の姿に感動するのは自然だった。 巨大マーケットとなったMLBは近年、お金が選手を支配していると言っても過言ではない。代理人は高額契約を勝ち取ることに躍起になり、トップは総額3億ドル(約330億円)時代に。そのため選手も球団もケガを恐れ、無謀なチャレンジをしなくなる。米国のアマチュアにも二刀流の可能性がある身体能力を持った選手はいるが、プロでは安全で確実な道を選ぶ。 大谷は23歳だった17年オフ、25歳未満の海外選手獲得規定により、マイナー契約で海を渡った。「あと2年待てば最低1000万ドル(約11億円)は確実なのに」と指摘する代理人もいたが、突き動かしたのは、お金よりも二刀流でメジャーに挑戦したいという純粋な気持ちだった。ヤンキースの右腕コールは球宴の場で「僕らはみんな子供の頃は投手も打者もやりたいと思っている。彼は夢のようなことをメジャーでやっているんだ」と話した。だから、選手たちもリスペクトする。 かつて野茂英雄は、ストライキ翌年の95年に「トルネード旋風」でMLBの人気回復に貢献し、01年にメジャー移籍したイチローはパワー全盛の時代にスピードとバットコントロールで球界を席巻した。大谷は二刀流で、コロナ禍で沈んだ球界に光を照らしている。
「元祖・二刀流」のベーブ・ルースは、1920年代に革命を起こした。バットに当てて出塁することが一番だった時代に、三振か本塁打のフルスイングで英雄となった。MLBの歴史を振り返ると「ゲームチェンジャー」が現れ、それが新たな潮流を生む。大谷も間違いなくその一人になるだろう。(編集局次長兼スポーツ部野球担当部長・甘利陽一)
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日本の誇り大谷の新たな歴史の瞬間を見ることが出来ました。
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