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無資格の者が税理士業務に携わる「ニセ税理士事件」。時折警察当局が摘発して報道もされるが、日本を代表する大企業が深く関わったケースは、おそらく過去に類例がないのではないか。気をつけろ、三菱UFJ銀行本店で「ニセ税理士」が堂々と働いている――。 ***
西川美和監督の映画「ディア・ドクター」の主人公は、笑福亭鶴瓶が演じるニセ医者・伊野治である。山間部の寒村にある村営診療所で働くただ一人の医者として村民から慕われていた伊野は、ある出来事をきっかけに失踪。その後、彼が医師免許を持たないニセ医者だと判明するが、それでも伊野を悪く言う村民はほとんどいなかった……。そんなストーリーの映画が公開されたのは平成21年(2009年)。一方、令和の現実世界に“発覚”したニセモノ騒動の舞台は、世界第5位の総資産額を誇る三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行である。なんとその本店で堂々と「ニセ税理士」が働いているというのだから、事実は小説より何とやら、だ。 問題の人物はKPMG税理士法人から三菱UFJ銀行本店に出向している30代前半の男性社員、西田公介氏=仮名=である。ちなみにKPMGは世界四大会計事務所(BIG4)の一角を占める多国籍企業だ。 「18年12月頃に出向してきた西田さんは三菱UFJ銀行本店のソリューションプロダクツ部ソリューションフィナンシャルグループに所属しており、同部署の職員はもちろん、同グループの職員も、彼のことは税理士だと思っています」 そう語るのは三菱UFJ銀行関係者である。 「その彼が実は“ニセ税理士”だと気づいたのは先月のことです。ある日、たまたまKPMGの関係者と話す機会があり、西田さんの話題になった時、その関係者が“西田さんは税理士ではない”と言うのです。彼が社内外で配っていた名刺にははっきりと『税理士』とありますし、本人も税理士を名乗っていたので最初はそんなことはあるはずがないと、信じられずにいました。しかし……」 この関係者が半信半疑で日本税理士会連合会のHPにある税理士情報検索サイトに彼の名前を打ち込んでみたところ、「該当するデータはありませんでした」とのメッセージが。 「念のため、連合会には電話でも問い合わせましたが、“その名前の税理士の登録はない。彼の職場での行為は税理士法違反にあたる”と言われました。最初は銀行に告発しようと考えました。しかし、もし銀行も組織ぐるみで関与していたとしたら……。大きな組織ですし、隠蔽されてしまったり私自身が不利益を被る可能性もあります」(同) そこで、本誌(「週刊新潮」)に情報提供するに至ったわけである。本誌も独自に日本税理士会連合会に問い合わせたが、やはり彼の名前での税理士登録はなかった。 「税理士名簿に名前のない者は税理士業務を行うことはもちろん、税理士を名乗ることも許されません。税理士法第52条では税理士でない者の税理士業務が禁止されており、これに抵触する場合は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。また第53条では税理士でない者が税理士を名乗ることを禁止しており、これに反すると100万円以下の罰金を科されます」(連合会の担当者) 実際、無資格の者が税理士業務を行う「ニセ税理士事件」は過去に何度も摘発されており、悪質だとして逮捕されたケースもある。 ちなみに税理士試験の科目には会計学科目と税法科目の2種類があり、会計学科目2科目、税法科目3科目の計5科目をパスすると合格となり、晴れて税理士に。西田氏は一部の科目をすでにパスしている「科目合格者」ではあるが、 「科目を一部パスしていても税理士業務はできないし、税理士と名乗ることも許されません」(同) 一体なぜ日本を代表するメガバンクで「ニセ税理士」が働いているのか――。
不自然な言い訳
名刺に「税理士」と書かれていることについて西田氏本人に聞くと、 「僕はそれは分かんないです。上の……上の判断なので。僕は知らないです」 三菱UFJ銀行にも取材を申し込んだところ、文書で回答が寄せられた。 「ご指摘を受けて調査したところ、名刺の肩書に税理士の表記があることが判明致しました。当行顧客又は第三者に対して税務アドバイス等の業務は提供しておらず、税理士法52条違反に当たるとの認識はございません」 事情を知るMUFG関係者によると、 「彼が税理士資格を有していないことは受け入れ時には分かっていたのですが、彼の前にKPMGから出向してきた人が全員税理士さんだったので、勘違いして、前任者の名刺の名前と連絡先だけを変えたものを作ってしまったようです」 KPMG税理士法人は、 「出向中の業務は税理士業務に該当しないことを確認しております」 揃って「税理士業務はしていない」と強調する両社。しかし、彼の名刺には「税理士」と記載され、彼が銀行内外で「税理士」として振る舞っていたことは紛れもない事実。その彼が税理士業務に携わっていないとは、いかにも不自然な言い訳だ。 先の三菱UFJ銀行関係者はこう話す。 「彼は銀行内で税務の相談に乗るだけではなく、社外の人のいる席にも同席していたはずです」 そもそも、無資格者が税理士と名乗るだけでも税理士法違反になることは前述した通り。 「それは詐称であり、刑法上の問題に問われる可能性もあります」(税理士の浦野広明氏) さらに奇妙な事実がある。西田氏の知人によると、 「彼は17年頃にKPMGに入っているのですが、その前にも会計や税務を扱う会社で働いていました。その時にはすでに自分は税理士だと言っていましたよ」 そんな彼が三菱UFJ銀行に出向してきた際、“誤って”名刺に税理士と記載される――。驚くべき偶然と言う他ないが、あるいは、その裏に事の真相が隠れているのだろうか。 「彼はどんな席などでも仕事を聞かれたら税理士と答えていました。だから彼の友人は皆、当然のように本物の税理士だと思い込んでいました」 西田氏の地元の知人男性はそう語る。 「ただ、それが嘘だったとしても、“彼ならやりかねないな”としか思いません。彼の実家は会社を経営しているお金持ちで、小さい頃から欲しいものは何でも手に入る環境で育った。そのせいかワガママな性格で、自分の思い通りにするためなら平気で嘘をつくようなところがあるのです」 その私生活も決して褒められたものではなく、 「彼女がいるのに新しい女を探して乗り換え、さらに女を物色する、といったことを繰り返しており、女性を騙してトラブルになったことも。それでいて“子育て中の女性の活躍をサポートしたい”と語るなど、二面性を持っています」(同) 冒頭で触れた映画「ディア・ドクター」の予告編には、「人は誰もが何かになりすまして生きている」という言葉が出てくる。西田氏は自身のインスタグラムでセレブのような生活を自慢していたという。本誌が彼に取材した直後、そのインスタは非公開となった。 「週刊新潮」2021年8月26日号 掲載
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税理士資格のないニセ税理士行為を行う者は少なからずいます。資格のない会計事務所の従業員が、個人的に依頼を受けて申告書を作成することもニセ税理士行為です。
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