今から10年後、団塊の世代が全員75歳以上となり、超高齢・多死社会が到来する。公的医療介護サービス不足は明らかで、「介護難民」は全国で43万人に及ぶ。この「2025年問題」の解決策として、民間団体「日本創成会議」が、余力があるとした松山、新居浜圏域など26道府県、41地域に東京圏の高齢者の移住を促すよう、政府や自治体に求める提言を発表した。
大胆な提言は、関心を集めて対策の加速を促すためのショック療法、警鐘と受け止めるべきであろう。人口減や「2025年問題」自体は、東京だけの課題でも、今に始まった話でもない。しかし、政治の危機意識は鈍く、社会保障制度の再構築は遅れに遅れている。国民の側もそれぞれに、老後をどこで、どう支え合って過ごすか、真剣に考える契機としたい。
よもや提言を真に受け、無責任に行政が移住を強いるようなことはあるまい。とはいえ、安直な発想の独り歩きや、対策の方向性の「ずれ」を危惧する。
「解決」とは、やみくもに施設を増やすことや、東京一極集中是正の名の下、人を「数合わせの移住」に追い立てることでは決してない。急ぎ取り組むべきは、誰もが「住み慣れた地域で最後まで安心して暮らせる」よう、施設に頼らない在宅医療・介護の拡充を図り、地域力を高めることであろう。
厚生労働省は実際、医療介護費削減を主眼に「施設から在宅へ」の流れを打ち出し、「地域包括ケア」を目指して地域全体の医療体制を再編する構想を進めてもいる。東京圏だけが構想を放棄し、施設を求めて地方へ―とは身勝手な話で、国が描く将来像とも矛盾しよう。
政府は提言を「地方創生」政策の追い風に、高齢者移住を加速する考えという。だが地方の側は、ただ人口を増やすことだけが地方創生ではないことを、あらためて肝に銘じたい。
医療・介護の人材は、東京で足りないなら地方はもっと足りない。その育成と待遇改善は、長く叫ばれながら一向に進まない。昨年の合計特殊出生率は9年ぶりに低下したが、全国一低いのは東京。若い子育て世代への手厚い支援なくして、高齢者だけが住みやすい街などあり得ない。何より多くの人が老後の不安を抱え、「ついのすみか」を求めて漂流せざるを得ない社会は、到底幸せとは言えまい。
地方からヒトやカネを吸い上げ、成長してきた東京は、巨大な地方。日本創成会議は、全国の自治体の約半数が消滅する可能性があるとの試算を昨年公表した。しかし、地方創生が奏功すれば皮肉にも東京全体が「消滅可能性都市」になる。移住を焦り、地縁血縁の薄い転入者同士の「ミニ東京」を目指すことが発展ではない。老いゆく国、日本の課題が凝縮する「東京の教訓」を忘れてはならない。
(愛媛新聞)
団塊の世代とは、昭和22年から24年生まれの者で、合計出生数は806万人。
現在の年間出生数は、約100万人だから、団塊の世代は現在の3倍弱であり、10年後には超高齢社会になり、介護施設が不足する。
大胆な提言だが、将来に対しての注意喚起なんだろう。
介護サービスを必要としない、元気な高齢者が増えることはないか。
0 件のコメント:
コメントを投稿