これまでは、その年の所得金額2000万円超の人が対象者で、総資産が3億円以上ある、または有価証券などを1億円以上保有している場合に提出義務が課されていた。それを今回の大綱で、所得にかかわらず総資産が10億円以上であれば提出するよう義務づけるとしたのだ。 なぜなら富裕層が、所得の要件に引っかからないよう、さまざまなテクニックを駆使していたから。税務当局は、そうした行為を潰し、徹底的に資産を把握して税金を取ろうと考えているわけだ。これまた富裕層を狙い撃ちにした徴税強化の一環といえる。
■熾烈を極める税務調査の実態 冒頭で紹介した富裕層は、税務署に資産の状況について尋ねられただけで終わったが、所得税の申告漏れを指摘され、過少申告加算税や延滞税を課される富裕層も増えている。 前出とは別のIT企業を創業、上場したことで資産が数十億円まで膨らんだ富裕層は、海外の資産について捕捉され、申告漏れを指摘された。 「確かにさまざまな節税対策は取っていたが、これまでの税務調査ではまったく指摘されなかったので安心していた。それが急に厳しくなった印象だ。税理士に相談して『大丈夫だろう』とのお墨付きをもらっていたのに……」と男性は苦しい表情を浮かべる。
この男性は「納得できない」として、しばらくの間税務署と争ったものの、「税務署の姿勢があまりに強固で、解決までにかなりの時間を要しそうだったので諦めて払った」と打ち明ける。 確かに、富裕層をターゲットにした税務調査は年々厳しさを増している。国税庁が発表した「富裕層に対する税務調査の件数」と、「1件当たりの申告漏れ所得金額」の推移を見ると税務調査の件数はほぼ右肩上がりで増え、CRSによる情報交換が導入された17年、18年はぐんと伸びている。
さすがに新型コロナの感染が拡大した19年、20年は減少しているものの、それでも税務調査は実施され続けていたことがわかる。21年度は過去最高となりそうだ。 一方、1件当たりの申告漏れ所得金額は、データを取り始めた10年前の12年には1000万円に満たなかったものの、すごい勢いで上がり続け、20年は2259万円と、過去最高を記録している。 「新型コロナの影響で調査に入りにくかったこともあり件数こそ減っているが、悪質かつ大きな案件に狙いを定めて調査に入っていたため申告漏れ所得金額は大きく上がった」と、税務調査に詳しい別の税理士は指摘する。
税務当局にマークされ、追い詰められている富裕層。こうした徴税強化に加え、贈与税と相続税の一体化を目指すなど、富裕層をターゲットにした課税強化は進むばかりだ。人もうらやむ富裕層だが、その心境は穏やかではないだろう。
『週刊東洋経済』1月7日号(1月4日発売)の特集は「狙われる富裕層」です。
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きちんと税金を納めない富裕層が多いということでしょうか。納得できなければ、有能な税理士に依頼するしかないでしょう。
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