東大関・稀勢の里(30)=田子ノ浦=が御嶽海(24)=出羽海=を寄り切りで下して、初日から5連勝を飾った。2横綱1大関を撃破した新鋭にヒヤリとさせられる場面もあったが、最後は万全の寄り切りで完勝。初日からの5連勝は4場所ぶりで、15戦全勝での初優勝なら一気に横綱昇進の機運も出てくる可能性が高まった。
落ち着き払った無表情に、稀勢の里の威厳が凝縮されていた。立ち合いから必殺の左おっつけが効かなくても動じない。左を差されて両足が俵にかかっても慌てない。直前に引いた左下手を命綱に、右上手もつかむと胸を合わせて前に出た。御嶽海は土俵を割って観念した表情を浮かべたが、完勝した大関はポーカーフェースのまま。今場所2つの金星を獲得した相手の勢いを完全にのみ込んだ。
支度部屋でも貫禄の表情は続いていた。「慌てる? 良かったんじゃないですか」。いつも通り目を閉じて相撲を振り返る。口調が強くなったのは、自らがはね返した若手について質問が飛んだときだった。「力がついている? そう思いますよ。見ての通りじゃないですか。善戦? そうだね」。相手の成長を認めた言葉にも、俺を倒すのはまだ早い―という風格が漂っていた。
10代の頃から豊富な稽古量で今の地位に上りつめた大関はこの日の朝稽古後、稽古不足の声が飛ぶ御嶽海との“稽古観”の違いに言及。「自分は本当の強さを求めてやりますからね。そういう意味では毎日しっかりやることが大事」。アマチュアと学生の2大タイトルを獲得して幕下10枚目格付け出しでデビューした御嶽海は、場所前に追い込まず本番にピークを合わせる。「稽古は大事。でも一番は本場所なんで」と言う新鋭を結果で一蹴した。
横綱審議委員会の本場所総見で訪れた守屋秀繁委員長も、横綱に一番近い男の相撲に目を細めた。「昨日より目をパチパチしなくなった。精神的に落ち着いていた。優勝を期待していますよ」。昨年は69勝21敗で初の年間最多勝に輝き、先場所は優勝した鶴竜と2差の12勝で優勝次点。今場所は明確な綱取り場所ではないが、全勝優勝なら一気に横綱へという話が出ても不思議ではない。そんな周囲の声にも、稀勢の里は心を乱さずに言った。「明日、明日だからね」。ブレない土俵への信念だけが横綱への道を切り開く。
(網野 大一郎)
◆横綱昇進 横綱審議委員会の内規には「大関で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績を挙げた力士」とある。準ずる成績―に関しては時代により解釈がさまざまで、優勝同点(決定戦負け)や優勝次点が混在。平成以降に誕生した横綱9人のうち、優勝同点→優勝で上がった鶴竜以外は2連覇で昇進している。
(スポーツ報知)
横綱昇進につながる場所にできるだろうか。また大事なところで負けるのだろうか。
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