東大関・稀勢の里(30)=田子ノ浦=が東前頭3枚目・隠岐の海(31)=八角=を突き落としで破り、初日からの8連勝で単独トップに立った。東横綱・白鵬(31)=宮城野=は西前頭2枚目・荒鷲(30)=峰崎=に初黒星を喫して後退した。稀勢の里のストレート給金は6度目で、単独首位での中日折り返しは昨年春場所以来2度目。横綱昇進のムードを作る悲願の初Vへ、和製大関が一歩抜け出した。
報道陣のどよめきで、稀勢の里は波乱を知った。東の支度部屋に戻り、髪を結いながら取材を受けていた最中だった。設置されたテレビから響く大歓声。じっと目を閉じていた大関が、ちらりとテレビを見上げた。宙を舞う座布団の映像で全てを察した。再び目を閉じ「また明日。明日しっかり集中して」。高ぶる感情を抑えこむように、言葉を吐き出した。
隠岐の海にもろ差しを許し土俵際まで押し込まれたが、左で突き落とし。勝ち名乗りを受けると、安堵(あんど)するようにフッと息を吐いた。「体が自然に反応した? そうだね。いろんな展開があるし、いいんじゃないですか」と前を向いた。誰もが頭になかった番狂わせ。八角理事長(元横綱・北勝海)は「おいおいおい。やるね、なかなか。これはビックリしたよ」と反応した。
驚きを通り越して心配する人もいる。横綱審議委員会の守屋秀繁委員長(75)は「稀勢の里は明日からまたプレッシャーがかかる。そっちの方が心配だ。今場所は落ち着いて相撲を取っていたけど、単独首位だとプレッシャーがかかるからね」。今場所後には任期満了で退任する。委員として07年3月の就任から稀勢の里を見守ってきた。委員長に就任して丸2年。何度も相撲協会から横綱昇進の諮問の要請を待ちながら裏切られてきた。期待より先に不安が出るのも無理はない。
NHKの大相撲中継には頻繁に稀勢の里の表情が映る。昨年夏場所から3場所続いた綱取り中は意図的に作った笑顔があったが、今場所は自然な表情が目立つ。朝稽古後に話題になると「去年の夏場所からカメラアングルに悪意を感じるよね」と笑う余裕もある。先場所は優勝した鶴竜と2差の優勝次点。今場所は明確な綱取り場所ではないが、全勝優勝なら昇進の話が持ち上がる可能性もある。「しっかり集中して」と繰り返した男は、今度こそ賜杯を手にすることができるか。(秦 雄太郎)
(スポーツ報知)
ヒヤヒヤな勝負が続いているが、勝ち続けるしかない。
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