小番被告の前回公判では、妻の「小番被告はペット感覚だった」「人生をリセットして、海外で美術の勉強をしたい」などとする供述調書が読み上げられており、それを受けた被告人質問には注目が集まった。
公判を詳述する前に、事件の経過を改めて整理する。
小番被告の妻(26)は小番被告と平成24年6月に結婚し、26年5月から東京都港区の弁護士事務所で男性の秘書として働き始めた。同年12月末、男性に口説かれた妻は不倫関係に。平成27年8月までに少なくとも6回の関係を持った。
しかし、妻は男性への好意が次第に冷め、小番被告に「職場の人間関係に悩んでいる。男性からキスされかけた」などと相談。小番被告が問い詰めると「2回だけ性的関係を持った」「拒んだけど、やめてくれなかった」などと嘘をついた。
小番被告は「男性が優越的な立場を悪用し、強制的に妻と関係を結んだ」と考え、昨年8月13日朝、弁護士事務所を訪問。男性の顔を殴った上、持っていたはさみで局部を切り落とし、重傷を負わせた-。事件の経緯はこの通りだ。
今年3月の公判では、妻の供述調書が朗読された。
それによると、妻は実家を出たいと思っており、「結婚すれば実家を出られる」「結婚なんて紙ッペラ1枚だ」との考えで小番被告と結婚した。しかし、学生だった小番被告を養う生活に疲れ、そんな際は「ペットのようなものだ」と考え、気を休ませていたという。
男性との関係については「初めて弁護士事務所でキスを求められた際、『関係を持つかも』と思ったが、拒むほど嫌ではなかったので受け入れ、その場で関係を持った」「給与や賞与のこともあり、拒んで職場で嫌がらせされるなどの不利益を受けるよりは関係を持った方がいいと考えた」と説明した。
また、当初は男性に好意があったが、あだ名で呼ばれ、高価なネックレスを渡され、長文メールが頻繁に届くようになると「気持ちが悪くなり、本気で引いた」。そんな中、小番被告から「帰宅が遅い」と叱られ、けんかになった際に、仲直りの方便として「キスされかけて悩んでいた」「2回だけ、拒んだけど関係を持たされた」と嘘をついたという。
「一騎(小番被告)は『強姦や強制わいせつでの刑事告訴や民事提訴、弁護士懲戒請求をしたい』と言ったが、私にも(実際には拒まなかった)負い目があり無理だと思った。ただ彼の気の済むようにさせようと思い、黙っていた」。
犯行時の状況については「一騎に殴られた男性が倒れ、チョキンという音がして、『あーやっぱり切っちゃった』と思った。止めなきゃと思ったが、ドラマのようで現実感がなく、動けなかった」。その上で「事件後も一騎への思いは変わっていない。ただ、騒ぎになったのでせめて名字だけは変えたいと思っている。人生をリセットして海外で美術の勉強をしてみたい、と考えている」。そこで調書は終わっていた。
妻のこうした“本心”が明かされた上で被告人質問に臨んだ小番被告。本人の口から語られる内容に注目が集まった。
弁護側の質問で小番被告が話したところによると、妻とは東日本大震災の復興ボランティアで23年3月に知り合い交際を開始。結婚の際のことを尋ねられ、「2人で『一緒に生きていたい』と決めた。『一生一緒に生きていこう』と…」と言葉につまり、質問約5分で涙声になった。また、「妻からは家庭の温かさなど多くのことを与えてもらった。早く司法試験に受かって、妻が与えてくれたもの以上のものを与えたいと思っていた」と話した。
妻から「2回関係を持たされた」と聞かされた際は「耐えられなくなり、トイレで吐いた」。「妻を愛していた。そんな妻が性欲のはけ口のように使われていたんだ、妻はずっと一人で耐えていたんだ…」と再び言葉につまり、「話してくれる妻が辛そうで心が痛くなった。悲しみ、絶望感が出て、男性への怒りになった」と心情を語った。
小番被告は男性に対して刑事告訴や民事提訴、弁護士懲戒請求を考えていたが、相談した警察などから「証拠がない」と言われ、本人の言質を取る計画を立てた。男性を追及し言質を取るための“台本”を作成したが、8月13日未明に妻が台本データを男性に“誤送信”。「時間がたつと対策を取られる。今すぐなら男性も混乱しているはずだ。とにかく男性と会って言質を取ろう」と考え、同日早朝、弁護士事務所を訪問したという。
「男性は謝ったが、『同意の上だった』などとも言った。謝ってごまかそうとしている感じがし、妻の苦悩や僕の絶望感を分かっていないと思った。そのとき、男性の仕事机にあった男性の家族の写真が目に入った。『僕が妻を愛しているのと同様、あなたも自分の家族を愛しているなら、なぜそんな家族の写真が見ている前で僕の妻に手を出せたのか』と怒りが爆発し、殴った」と犯行に及んだ経緯を説明した。
局部を切り、トイレに流した理由についても「数年前に局部をはさみで切った事例をインターネットで知り、頭の中にあった。妻と同じことをできないようにするため、再生手術などを不可能にするために流した」と話した。
その上で、「今は妻の話が正確ではなかったことも知っている。男性には大変申し訳ないことをした。また男性の家族にも精神的打撃を与えてしまった。反省している」と謝罪した。そして「妻は今も毎週2回以上面会してくれ、約100通くれた手紙でも『罪を償った一騎を支えたい』といってくれている。妻のことは僕の命よりも大切に思っている。罪を償ったら、また一緒に妻と暮らしていきたい」と声を震わせた。
ただ、検察官や裁判官から厳しい指摘が入るシーンもあった。
小番被告は事件直前、弁護士事務所近くの地下鉄駅で持参してきた包丁とはさみのうち、「殺人はできない」として包丁だけを捨てていた。
局部を切り取った理由を「殴って倒れた男性の下腹部を見て、衝動的に切ってしまった」と説明する小番被告に対し、検察側は「はさみを捨てずに持っていたのは、衝動的な局部切断だったわけではなく、最初から計画していたのではないか」「殴った後、すぐに局部を切断している。手際が良すぎる。計画していたのだろう」と追及した。
それに対し、小番被告は「包丁を捨てることで頭がいっぱいで、はさみのことまで考えなかった」「局部切断は確かに頭の中にはあったが、実際に具体的に計画していたわけではなかった」と否定し続けた。
真相がどうあれ、法律家の卵だった小番被告であれば、計画的な犯行の方が突発的な犯行よりも悪質で刑罰が重くなるということを知らなかったはずはない。
また局部を切った後に笑い声を上げたことについて、検察側から「なぜ笑ったのか」と追及されると、「意識を取り戻した男性から『なぜ切った』といわれ、『あなたが妻を強姦したからですよ』と告げたら、男性は『してない』と言った。さっきまでは関係を認めて謝っていたのに。だから“あきれ笑い”をしたのであって、面白くて笑ったわけではない」と反論した。
家令和典裁判官からも「あなたの妻の調書は『人生をリセットして海外で勉強したい』というところで終わっている。あなたは『妻は出所後も待っていてくれる』と言っているが、本当なのか。離婚などの話は出ていないのか」といぶかしがる質問がされた。対して小番被告は「最近の手紙でも『支える』と言ってくれている。離婚の話など一切ない」と答えた。
世間の耳目を集めた弁護士局部切断事件は次回6月の公判で論告求刑などが行われ、結審する見通しだ。
(産経新聞)
妻への変わらぬ愛は、真実か、減刑目的の嘘か。
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