「想像以上の額に、がくぜんとした」。岡山県北の作州地域に15店舗を持つ津山信用金庫(津山市)の担当職員が手元の資料を示しながら、険しい表情で話す。
近年、70歳以上の個人預金が急激に目減りしていることから初めて実施した相続移転調査に驚いた。2016年度上半期(4~9月)で10件、総額5千万円が東京の大手銀行に流れていた。下半期も増え続け、年間1億円を超すペースで推移しているという。
「都市部への人口集中が引き金になっている。相続発生のたびに預金が都市部に移ってしまっては、県北経済の地盤沈下を招きかねない」と松岡裕司理事長(66)は危惧する。
大きく動き始めた相続マネー。同信金や備北信金(高梁市)では円滑な資産相続をサポートする金融商品の取り次ぎを準備するなど対策に乗りだした。
〈「地方に住む親と大都市圏に住む子供」という組み合わせが多いため、相続の発生が増えれば、家計資産の地方から大都市圏への移動が加速する〉
三井住友信託銀行が14年にまとめたリポートは、「大相続時代」の到来を告げながら地域の金融機関に警鐘を鳴らしている。
その試算額は膨大だ。
今後、20~25年間に相続される金融資産の推計は総額650兆円。うち120兆円近くが地域を越えて移転するという。移動先は東京を中心に埼玉、千葉、神奈川を含む「東京圏」が群を抜いており、51.4兆円もの資産が流れ込む。流出額を差し引いても30.6兆円の超過。2番目に多い大阪圏(大阪、京都、兵庫)がプラス4.1兆円だから、差は歴然としている。
青森から沖縄まで全国の30県では地域外への流出額が2割を超える。岡山もその一つで、東京圏に吸収される資金は1兆円程度。人が亡くなった後も資産の一極集中が進むことになる。
「何のためらいもなかったですよ」。東京都内で公務員として長く働いていた岡山県出身の男性(70)=千葉県在住=にとって、それはごく自然な流れだったようだ。
この3年間で、岡山県西部に住む古里の両親を相次いで亡くした。相続した計1500万円の預貯金は神奈川県に住む妹と折半した。地方銀行と最寄りの郵便局にあった親の口座は解約し、自分が持つ都内と千葉県にある金融機関の口座に移した。空き家となった実家は今夏、父の三回忌を済ませてから売りに出すつもりだ。「仕方ない。もう戻るつもりもないからね」
東京を中心に都市部はますます潤い、地方はじり貧に―。相続マネーを巡るこの格差は「多死社会」を迎えてさらに拡大すると三井住友信託銀行のリポートは見越す。若者を都会へ都会へといざなった高度経済成長期のダメージは、今後も地域社会の中でボディーブローのように効いてくる。
(山陽新聞デジタル)
東京の一極集中で、地方はジリ貧か。
地方をどうしたら魅力的にできるのだろうか。
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