育成制度導入のきっかけは、日本社会の平成不況による社会人野球の相次ぐ廃部だった。チームの消滅は選手数の減少に直結する。それを懸念したNPBが、「準支配下登録選手」として上限70人の支配下登録選手とは別に「育成枠」の導入を決定。将来有望な若者に多くのチャンスを与えて、自ら“育成”できるようになった。
「1軍戦出場不可」、「背番号原則3ケタ」、「年俸240万円」、「契約期間3年まで」など多くの制約が設けられている育成選手。その経緯、種別を大きく分けると3通りあり、約半数は「育成ドラフトで入団した選手」で、残りの半数は「自由契約から育成選手として再契約した選手」と「同一球団5人目以降の外国人選手」となっている。10年間で341人という数の妥当性はさておき、その半数近くが「元支配下」と「外国人」が占めるようでは、「育成」という本来目的からは外れ、プロ野球選手を目指す日本の若者たちの“登竜門”だとは言い切れないだろう。
年度別の推移を見るとどうだろうか。導入初年度の06年に育成選手を活用したのは、巨人、福岡ソフトバンク、中日、広島の4球団で、選手数は計13人。そのうち前年秋の育成ドラフトで入団した新人選手は6人だった。
そこから同制度は一気に拡大。翌年には東北楽天、東京ヤクルト、翌々年には千葉ロッテ、オリックス、横浜(現・横浜DeNA)、阪神も育成ドラフトに参加し、それに伴って育成選手の数も右肩上がりで増加。09年には計26人の“育成ルーキー”が誕生した。翌10年はやや人数を減らしたが、11年には最多の29人が育成選手としてプロ入りし、埼玉西武が初参加した育成ドラフト後の翌12年には育成選手の在籍人数が計107人にも及んだ。
球団別にみると、制度導入初期は育成出身の山口鉄也、松本哲也が08年、09年と新人王を受賞したこともあって「育成=巨人」の印象が強かったが、その後は09年にロッテに入団した西野勇士、岡田幸文が脚光を浴び、ここ4、5年は豊富な資金力を持つソフトバンクが積極的に同制度を活用。その中から山田大樹、千賀滉大、牧原大成、飯田優也、二保旭といった面々を支配下に送り出した。13年以降、全体数の増加は落ち着いたが、今季終了時点で巨人が13人、ソフトバンクは20人もの育成選手を保有している。
そして近年、育成ドラフト出身者の“シンデレラストーリー”よりも目立つのが、支配下選手の育成再契約である。この育成再契約にも大きく分けて3つのパターンがあり、戦力外一歩手前の「ラストチャンス枠」として契約する場合と、他チームに移籍した場合に多く見られる「リベンジ枠」としての扱い、そしてもうひとつが「リハビリ枠」である。
現役での具定例を挙げると、「ラストチャンス枠」は野手転向から今季プロ初安打を放った赤坂和幸(中日)、フォーム改造が実った伊藤和雄(阪神)。「リベンジ枠」は移籍1年目から今季59試合に出場した堂上剛裕(巨人)。そして「リハビリ枠」には脇谷亮太(巨人)、近藤一樹(オリックス)、中川大志(楽天)らが、それぞれ手術による長期離脱を考慮して育成契約を結び、戦列復帰後に再び支配下選手として活躍している。
この中で特に増えているのが、「リハビリ枠」である。これは事実上、MLBの「故障者リスト」にあたるもので、1軍での実績を持つ中堅、ベテラン選手が「育成」の名の下で他の若手と同列に語るには大きな違和感がある。
日本ハムは育成選手ゼロ
今年10月の育成ドラフトでは計28人の若者たちが指名された。大量8人を指名した巨人が新たに3軍の設置を発表するなど、表向きは「裾野の拡大」を謳ってはいるが、実際は安い費用(支度金300万円、年俸240万円)での選手の囲い込みが可能だ。だが、多くの選手は支配下登録を経験せずにユニホームを脱いでいる。
これまで、育成制度によってプロ入りや復活のチャンスを得た選手がいたことは確かで、その意味では同制度の導入は大きな成果と意義があったと言える。だがその一方で、多くの選手が“育たず”にユニフォームを脱いだ。それを「自己責任だ」と決めつけるのは乱暴だ。例えば、日本ハムは選手の出場機会を確保するという編成方針から育成制度は一度も利用していない。果たして、どちらが“育成”に成功しているだろうか。導入10年、育成制度を見直す良い時期であると思う。
これまでの10年間で、育成から支配下登録を勝ち取った選手は計112人(育成ドラフト入団選手57人、支配下経験者36人、外国人選手19人)いる。これを各パターン毎に支配下登録率を割り出すと、いずれも32%〜34%の数字が並ぶ。「育成→支配下」は「3人に1人」だが、この中で1軍の試合に出場した選手は30人に満たない狭き門である。そして今後、各パターン間に大きな差異が生まれて来れば、育成制度の改革は避けられない状況になるだろう。
今年10月の育成ドラフトでは計28人の若者たちが指名された。大量8人を指名した巨人が新たに3軍の設置を発表するなど、表向きは「裾野の拡大」を謳ってはいるが、実際は安い費用(支度金300万円、年俸240万円)での選手の囲い込みが可能だ。だが、多くの選手は支配下登録を経験せずにユニホームを脱いでいる。
これまで、育成制度によってプロ入りや復活のチャンスを得た選手がいたことは確かで、その意味では同制度の導入は大きな成果と意義があったと言える。だがその一方で、多くの選手が“育たず”にユニフォームを脱いだ。それを「自己責任だ」と決めつけるのは乱暴だ。例えば、日本ハムは選手の出場機会を確保するという編成方針から育成制度は一度も利用していない。果たして、どちらが“育成”に成功しているだろうか。導入10年、育成制度を見直す良い時期であると思う。
(ベースボール・タイムズ)
底辺拡大や経費削減に寄与しているが、出場機会が少ないと選手が育たないのも現実だろう。
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