バターは、国内酪農家を保護するために民間企業が勝手に輸入することができない国家貿易となっている。農林水産省は今冬の品薄を避けるため、今年5月、1回の輸入規模としては過去最大となる1万トンの追加輸入を決定した。バターの輸入が急拡大した際に関税を上げる「セーフガード」の基準とされる約1万1千トンを上回る見通しだったが、11月24日、政府は、年度内はセーフガードの適用を見合わせることを閣議決定した。追加輸入されたバターは11月中に市場に全て出回ったとみられるが、小売店には依然として、販売個数制限のお断りが貼られている。
総務省の小売物価統計調査によると、11月の東京都区部のバター販売価格は200グラム当たり434円。昨年同期は418円なので、値上がりは明らかだ。
インターネット上には「ケーキが作れない」「マーガリンでは風味もコクも出ない」など、“バター難民”の悲鳴があふれる。
国内では近年、原料となる生乳の生産減少から慢性的なバター不足が続く。農水省によると、高齢化や後継者不足で、酪農家は今年2月1日現在で1万7700戸と10年前の3分の2に減少している。ピーク時の平成8年度は約866万トンだった生乳の生産も、25年度は約745万トンにとどまっている。
ただ、原料が同じ生乳でも、牛乳やヨーグルトが品薄になるという話はめったに聞かない。作りすぎた牛乳を、酪農家が悲痛な思いで廃棄したという報道もあったくらいだ。なぜバターばかりが足りないのか。
生乳は、全国に10ある「指定生乳生産者団体」に酪農家が販売委託をしてこの団体が乳業メーカーと価格交渉を行う。
生乳は鮮度が求められる飲用牛乳、生クリーム、チーズ、バターなどの順番で配分される上、バター用の生乳の価格は牛乳用に比べ3~4割も安い。生乳全体の生産量が減ったしわ寄せがバターに集中する形になっている。
酪農家は生乳の使い道を自由に決めることは難しい。現行の制度は「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法」に基づいており、枠組みを外れて直接販売すると国の補助金が出ない仕組みになっている。
制度が始まった昭和40年代は酪農家の経営規模が小さく、価格交渉で不利な立場に置かれがちだった。このため、酪農家が団結することで乳業メーカーと対等に交渉する狙いがあった。
バターなど保存がきく乳製品向け生乳の主生産地だった北海道が、用途を飲用向けに増やしていることもバター不足の一因になっているとみられる。
農水省の外郭団体「農畜産業振興機構」によると、北海道と本州などでは酪農規模に差がある上、北海道は東京や大阪などの一大消費地からも距離が離れているため、これまでは生産者団体を通じて用途のすみ分けが行われてきた。
ところが、全国的な生乳の生産量減少の影響を受け「北海道でも飲用に充てられる生乳の割合が増加している」と同機構の担当者は話す。円安による飼料の価格高騰で、生産者団体を通した取引では採算が合わないケースもあり「直接販売のルートを開拓し、価格の高い飲用として販売したり、付加価値をつけてバター用に限定して販売したりする酪農家もいるようだ」という。
北海道の十勝平野で酪農を営み、直接販売も視野に入れているという男性(47)は「バター不足で消費者を困らせるのは、酪農家として本意ではない」と残念がる。生産者組合が交渉力をつけ、バター向け生乳の取引価格が高くなればバターの生産量が増える可能性はあるが、「生産者団体や補助金に頼る酪農の構造が時代に合わなくなっているのではないか。酪農家が明確なビジョンを持って自ら経営する“転換期”なのだろう」と話した。
(産経新聞)
生乳をバター生産に回せないのであれば、バターの輸入自由化をすべきだろう。
酪農家を守るのか、自由化して安い乳製品を国民が買えるようにすべきなのか。
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