そのための布石を、安倍晋三首相とその周辺は次々と打ってきた節がある。
増税を延期する条件として首相は「リーマン・ショックや(東日本)大震災級の事態」をずっと挙げてきた。
だが年明け以降、「世界経済の大幅な収縮」が条件に加わり、さらには「税率を上げても、税収が上がらなくては元も子もない」と、増税に伴い景気が悪化する場合も延期を排除しない考えを示し、ハードルを自ら下げた。
首相の経済ブレーンたちは増税延期と共に景気テコ入れの財政出動を提唱し、外堀を埋める役割を果たしてきた。
極め付きは、中国経済の減速などから先行き不安が高まる世界の経済状況に、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の議長国として適切に対応するための「勉強会」と称し設置した国際金融経済分析会合である。
既に3回の会合があり、共にノーベル経済学賞を受けた米経済学界の重鎮2人が、予定通りの増税に反対した。2人からお墨付きを得た形で、流れは固まりつつある。
だが、思い起こしてほしい。首相が2014年11月、翌15年10月予定の増税延期を決め、アベノミクスを「この道しかない」として、衆院解散を表明した際の記者会見だ。
「国民の所得をしっかり押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく。そうすれば、消費税率引き上げの環境を整えることができる」と訴えた。
しかし、再延期なら、アベノミクスによって増税環境は整えられなかったことになるのではないか。
確かに世界経済という外的要因はある。が、「リーマン」を増税延期の条件にしたからには、その変動をある程度は織り込んでいたはずだ。現状が「大幅な収縮」に当たるのかどうかさえ疑問だ。
重鎮2人は、増税反対を提言しただけではない。「金融政策は役割を全うした」などとして、金融緩和は限界にあることを指摘している。
アベノミクスは、日銀の大規模緩和を頼りに円安、株高で大企業や富裕層が受ける恩恵を中小や地方に及ぼすことを狙いながら、一向にその政策効果が上がらない。それどころか、格差の拡大を招いている。個人消費が低迷したままなのが、その証しだ。
スティグリッツ米コロンビア大教授は先進国で進むその格差拡大を問題視。格差縮小が経済の改善に必要だとし、富の再配分に向けた相続税や金融取引税の増税、教育に対する政府支出増についても提言した。まさにアベノミクスに欠けた視点ではないか。
増税を見送るなら、経済失政を認め、路線の転換を図るのが先だ。スティグリッツ氏らの提言の一部を強調し増税延期だけを決めるのは筋が通らない。「耳の痛い」指摘にこそ、耳を傾けるべきだ。
増税延期について、再び国民に信を問うとして衆院を解散し「衆参同日選」に打って出ようものなら、ご都合主義以外の何物でもあるまい。
(河北新報)
アベノミクス失敗で、格差拡大・物価高により、消費が低迷している。
消費税増税の前に、富裕層の課税強化が先なのだろう。
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