「いい選手には違いありませんけど……」
ソフトバンクとの首位攻防戦に連勝し、マジック6を点灯させた日本ハムのOBがこう言った。
「いい選手」とは初戦の九回2死から中堅最深部の飛球をスーパーキャッチ、あわや逆転負けのピンチを救った陽岱鋼(29)のことだ。22日も2安打1打点と連勝の立役者とも言うべきベテランに関して、OB氏が「球団内部の評価は実はそう高くないと聞きました」とこう続ける。
「野手では中田と並ぶ看板選手が今季中、FAを取得した。本人は高校時代からの希望球団で、母国の台湾にも近いソフトバンクへの移籍を望んでいるようですが、球団側に引き留めの意思を感じないのです。それどころか数年前の故障以来、肩が弱くなったという指摘すらある。陽よりイキのよい3年目の岡(25)、2年目の浅間(20)、5年目の近藤(23)らを外野で使った方が伸びシロは大きく内部が活性化されるという空気なのです。仮に陽がFAで手を挙げたとしても球団は必要以上の評価はしないでしょう」
日本ハムは「ドラフトと育成」がチームの基本方針。外国人の補強はしても、あくまで生え抜き中心の構成だ。FAやトレードには目もくれないどころか、活性化の手段として利用する。例えばダルビッシュ(現レンジャーズ)を入札で海外へ放出しても、あえて補強はしなかった。エースが抜けたことをマイナスではなく、若手が目の色を変えるチャンスとしてとらえた。その結果、ローテに定着した吉川(28)は14勝してリーグ優勝に貢献した。監督の選手起用が偏れば、他の選手がチャンスを失うと、監督お気に入りの選手をわざわざ放出したことも過去にはあった。
前出のOB氏がこう言った。
「今季の外国人を除いた年俸総額は12球団中6位の約20億円に過ぎない。それでも球団内部からは、2億4500万円の中田(27)を筆頭に、2億2000万円の増井(32)、1億6000万円の陽ら、費用対効果を疑問視する声が出ています。額面通りに働かない高給取りが増えてきて、大企業病かもしれないとね。3年連続100打点の中田だってウカウカできない。特にシーズン序盤はチャンスをことごとく潰してましたからね。このまま順調にいけば来シーズン中にFAを取得するし、多少、ダンピングしてもトレードに動いた方が得策という声もあります」
■中田もウカウカできない
このオフは、中田や陽を含めた大幅なチームの活性化もあり得るというのだ。日本ハムはそうやって過去10年で4回リーグ優勝、Bクラス転落は2回しかない。活性化の手を緩めず、少額の投資で結果を出してきた。
そこへいくと活性化どころか、札束を積んで補強の手を緩めないのが巨人と阪神だ。
巨人の年俸総額は12球団中2位の約33億円、阪神は3位の約24億円。外国人を含めると巨人は約46億円、阪神は約31億円にハネ上がる。特にヒドいのは阪神で、毎年、カネを湯水のように使いながら過去10年、一度も優勝していない。そのうちBクラス3回。今年も最下位を争っている。
今年のチームスローガンは「超変革」なのに、いまだ福留(39=年俸2億円)、能見(37=1億4000万円)らのベテラン頼み。14年オフにはメジャー挑戦を表明した鳥谷(35)を5年20億円で引き留め、成績が伴わなくなった今季は金本監督以下の首脳陣が起用法に頭を痛めている。昨オフ、2年4億円で獲得した藤川(36)も43試合で5勝6敗3S、防御率4.60と、とてもじゃないが投資に見合うだけの数字は残していない。
といって額面通りに働かないベテランを脅かすだけの若手も現れず、このオフもまた、大金を投じてFA補強に走り回る気配なのだ。
2年連続優勝を逃した巨人にしても、すでにフロント幹部がオフの補強を示唆。「今後どういう補強が必要になるか、全体として考えていかなければならない」と老川祥一オーナー(74)が話せば、渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆(90)も「これは由伸の責任じゃねえな。フロントだよ。こんな補強せず、今の陣容で勝てと言ったって無理だよ」と話している。
選手を放出することでコンスタントに結果を出している日本ハムを見るにつけ、巨人や阪神は大金を使うより先にやることがあるんじゃないかと思えてならない。
(日刊ゲンダイ)