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2016年11月9日水曜日

37歳で王座返り咲き…パッキャオが愛され続ける理由〈dot.〉

 現地時間11月5日、ボクシングの6階級王者マニー・パッキャオの現役復帰戦がラスベガスで行われた。37歳になったフィリピンのスーパースターは、WBO世界ウェルター級王者ジェシー・バルガス(アメリカ)からダウンを奪っての判定勝利。10歳も若い選手をスピード、スキル、スタミナで上回り、再び世界王者に返り咲いた。

「僕のパンチも何発かは当たったが、彼の方が経験豊富だった。パッキャオはレジェンドだよ。彼を称賛しなければいけない」

 敗れたバルガスの方にも伝説的な選手へのリスペクトが感じられた。

 実に21年にわたるプロキャリアのうち、パッキャオは18年間を王者として過ごしてきた。その間にフライ、スーパーバンタム、スーパーフェザー、ライト、ウェルター、スーパーウェルター級を制して6階級制覇。フェザー、スーパーライト級でも最強と目された選手に勝っており、事実上の8階級制覇と記されることも多い。そして、これほどの実績を積み重ねる過程で、パッキャオは世界的な興行価値を誇るアスリートに成長していった。

 1990年代以降の米ボクシング界では、ビッグファイトのテレビ放送は視聴者がコンテンツを選んで見た分だけ課金されるPPV(ペイパービュー)が主流になった。売り上げ次第で多くの歩合を手にできるシステムで、一部の人気選手は1000万ドル(約10億4000万円)以上に及ぶ報酬を手にできる。ただ強いだけでなく、ファンに“金を払ってでも見たい”と思わせなければ大金は稼げない。

 パッキャオは過去にこのPPVで通算約1840万件を売り上げ、実に12億ドル(約1253億円)以上の収益を挙げてきた。個人のPPVの売り上げランキングでも、フロイド・メイウェザーに次ぐ史上2位。3~5位のオスカー・デラホーヤ、イベンダー・ホリフィールド、マイク・タイソンといったアメリカのスーパースターたちをも上回っている。

 アジアの島国出身、英語が母国語でもない小柄な選手が、ボクシングの本場と呼ばれるアメリカで超人気を誇るファイターになった。異国で抜きん出ることの難しさと意味は、特に海外暮らしの経験がある人には理解できるのではないか。幾つものタイトルを獲得する以上に至難なことを成し遂げたパッキャオを、“アジアの奇跡”と呼んでも決して大げさではないのだろう。

「五輪で実績を残したわけでも、無敗で勝ち続けてきたわけでもない。そんなパッキャオがこれほどの人気になったのには、階級を上げてもアグレッシブなスタイルを変えなかったことが大きかった。自分より一回りもふた回りも大きなボクサーを相手にエキサイティングなファイトを連発した。そんな姿を見て、アメリカのファンも興奮し、感動したんだ」

 バルガス戦のファイトウィーク中、あるフィリピン系アメリカ人の記者はそんな説明を加えてくれた。

 その言葉通り、攻撃的なファイトスタイルの魅力は全世界共通。112ポンドのフライ級から154ポンドのスーパーウェルター級(#注)まで次々と階級を上げながら、同じようにアグレッシブに前進し、強烈なパンチを振り回し続けた。メイウェザーのようにリスク回避の選手が勝ち残ることが多い近代のボクシング界で、パッキャオは異端児であり、一服の清涼剤だった。

 ボクシングキャリアと並行させて政治家としても活動するパッキャオは、今年5月には上院議員選挙にも当選。議員活動とボクシングキャリアを両立させようとすることに、近年は好意的なフィリピン国民ばかりでもないという。2009年以降はKO勝利からも遠ざかり、“ボクサーとしてはそろそろ潮時ではないか”と指摘する声も出てきている。5日のバルガス戦でもスキルフルではあったものの、全盛期の迫力が失われたことを残念に思ったファンも多いだろう。

 ただ…そんなマイナス面を差し引いても、これまでのパッキャオの実績が素晴らしく、ボクシング界にとって宝物のような存在だったことを否定できるものはいない。アメリカンドリームの体現者は、文字通りの“レジェンド”。現代に生きる私たちは、この選手と同じ時代に生きたことを、孫の世代にまで自慢げに語る日がいつか必ず来るのだろう。(文・杉浦大介)

 (#注/2010年11月にパッキャオが臨んだスーパーウェルター級王者決定戦は150ポンドの契約ウェイトで行われた)
(週刊朝日)

 前に出て攻めるの単純明快さが愛される理由だろう。

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