水素を燃料とし、水しか排出しないため「究極のエコカー」と呼ばれる燃料電池車。だが、そこには意外な落とし穴があるという。『「走る原発」エコカー 危ない水素社会』(コモンズ)の著者で環境経済研究所の上岡直見代表が語る。
「燃料電池車がCO2を排出しないのはあくまで“運転時”の話。水素は天然資源ではないため水の電気分解などで製造する必要があり、その過程で結局はガソリン車並みのCO2が生ずる。現在はオーストラリアなど海外から水素を輸入する計画のため消費者からは見えにくいですが、本当に『エコ』と言えるのか疑問です」
この根本的弱点を解決するために安倍政権、「原子力ムラ」が持ち出しているのが、なんと原発の一種である高温ガス炉という新技術だという。
高温ガス炉は水の代わりに気体のヘリウムガスで原子炉の冷却を行う原発。世界でもまだ実用化に成功した例はなく、日本にも、小規模な研究炉が1基あるのみだ。前出の上岡氏が続ける。
「高温ガス炉では、現在主流の軽水炉の約3倍にあたる1千度前後の熱が取り出せる。これを利用すればCO2を出さずに水素を製造できるという理屈です。この話を、原発の復活に利用しようという動きがあるのです」
実際、民主党政権下の2010年のエネルギー基本計画でいったんは削除された高温ガス炉の記述が、安倍政権下の同計画で昨年、復活したのだ。
<水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進する>
と、水素製造の文脈で高温ガス炉の開発推進がハッキリうたわれている。ではその高温ガス炉、安全性はどうなのか。
「高温ガス炉では電源を失ってもメルトダウンは起きないと言われているが、事故が起きて燃料が破損したときに放射線を遮蔽する水はなく、放射性物質がむき出しになる。そんな中で収束作業はできない。また、高温ガス炉で製造した水素には放射性物質のトリチウムが混ざる。微量とはいえ、将来本格的に水素自動車が普及したら、無視できない量のトリチウムが町中にばらまかれることになる」(上岡氏)
国を挙げて推進する夢の技術のはずが、一歩間違えばとんでもない未来が訪れかねないのである。
※週刊朝日 2015年10月30日号
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