本田技研工業は、本田技術研究所 四輪R&Dセンターにおいて今後導入が予定される先進技術の紹介とともに、未発売モデルの試乗会を兼ねた「2015 Honda ミーティング」を報道陣向けに開催した。
今回の「2015 Honda ミーティング」では、新型「NSX」プロトタイプをはじめ、新開発の1.0リッターガソリンターボエンジン搭載車、FF車用10速AT搭載車、新型FCVの試乗に加え、同社が目指す先進の安全運転支援や自動運転に関する説明コーナーなどを設置。同社が今後展開するパワートレーンや安全技術について説明を行った。
これら試乗インプレッションや安全技術の紹介は、自動車ジャーナリストの西村直人氏のリポートを別稿として用意した。本稿では本田技術研究所 常務執行役員 技術戦略担当の大津啓司氏から行われた、ホンダの将来技術に関するプレゼンテーションの模様を紹介する。
大津氏はまず、ホンダが進める“FUN”と“環境”の両立を目指した取り組みについて紹介。すでに同社はエンジンなどの内燃機関やトランスミッションの効率向上、モーターなどの電動化技術の進化によって、優れた環境性能をベースに同社ならではの運転する楽しさを追求し、走りと燃費を高次元で両立させる次世代革新技術「EARTH DREAMS TECHNOLOGY(アース・ドリームス・テクノロジー)」を世界各地で展開している。これに加え、“究極の環境車”に位置付けるFCV(燃料電池車)の発売へのカウントダウンが始まっていることから、大津氏は「ホンダは内燃機関からFCVまで、広範囲な技術に取り組みながら人に役立つ商品で持続可能な社会を目指していきたい」と冒頭にコメント。
そしてパワートレーンについては、現在ホンダではEARTH DREAMS TECHNOLOGYとして開発された自然吸気エンジンをベースにする、「ステップワゴン」「ジェイド」に搭載する1.5リッターVTECターボエンジン、新型「シビック TYPE R」に搭載する2.0リッターVTECターボエンジンの量産を開始しているが、新たに1.0リッターVTECターボエンジンを開発したことを発表。
この1.0リッターVTECターボエンジンは、高効率のターボチャージャーやVTECの採用により、従来の1.8リッター自然吸気エンジンと同等の出力・トルクを発生しているといい、「熱効率を高めていくとともにフリクションを低減することで、大幅な燃費向上を実現している。各国で強化されていく燃費規制に対応できるように設計した」と大津氏はその特長について語る。
パワートレーンでのもう1つのトピックは、従来の6速ATに代わる世界初となるFF車用10速AT。この10速ATではトルクコンバーターの小径化などにより低慣性化に注力するとともに、ワイドレシオ、10速、クロスレシオの採用よって追い越し加速性能、変速応答時間を向上させ、大幅にレスポンスを改善することに成功したという。加えて「クロスレシオ設定により、強い加速のときはドライバーの意のままに素早い応答でリズミカルに変速し、緩加速では低いエンジン回転数で上質な加速を実現している」と特長について触れ、その効果について従来の6速AT比で燃費を6%、低回転クルーズを可能としたことで静粛性を26%以上低減したことが挙げられている。
次に紹介されたのは電動化技術について。同社は1999年に「インサイト」に搭載した「IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)」から電動化技術を進化させ、2013年にはスポーティな走りと低燃費を両立する1モーターの「i-DCD(インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)」、2モーター高効率ハイブリッドの「i-MMD(インテリジェント・マルチ・モード・ドライブ)」を、2014年にはハンドリング性能を高めたスポーツハイブリッド「SH-AWD(Super Handling-All Wheel Drive)」を展開している。そしてプレゼンテーションでは、新型「NSX」に搭載するパワートレーンについて紹介が行われた。
新型NSXでは、V型6気筒直噴3.5リッターツインターボエンジンを縦置きミッドシップに配置し、その直後にクランクシャフト直結のモーターを搭載。トランスミッションは9速DCTで、車両前方には独立左右制御の2モーターを配置した。ハイブリッドに必要なバッテリーは、高圧配電部品と一体化した「インテリジェントパワーユニット(IPU)」として乗員の背面に搭載され、センタコンソール下方の「パワードライブユニット(PDU)」を介して3つのモーターをコントロールしている。これらをコンパクトにパッケージ化することで、低重心・低慣性モーメントを実現しているという。
V型6気筒直噴3.5リッターツインターボエンジンでは、スポーツカー専用エンジンとして圧倒的な出力性能と低重心パッケージを実現するべくさまざまな技術を盛り込んだといい、「筒内直噴とポート噴射を組み合わせることで、燃料流量をワイドレンジ化し、その結果高い環境性能と合わせて大幅な出力性能の向上を達成している。さらにはドライサンプシステムにより重心位置を下げ、横Gの強い高速走行においてもエンジン性能をフルに発揮できるよう設計している」と述べる。
また、新開発の9速DCTについては2速から8速までをクロスレシオ化してスポーティな走りを実現するといい、「これにクルーズギヤとしての9段目を追加し、静粛性と燃費にも貢献している。また、ドリブンギヤを供用して使用することで9速分を7列構成とし、全長を短縮させた。さらに、トランスミッションケースにはハイシリコン材を適用して薄肉化・軽量化した。これによりコンパクトかつ低重心化を実現している」(大津氏)と、その特長を報告。
そして前後の3モーターからなるSH-AWDでは、「発進時にはクランク直結のリアモーターがアシストして遅れのないダイレクトな加速を可能にし、フロントの独立左右自在制御の2モーターはコンパクトながら高出力・大トルクを発生させ、サーキットなどの高速域でも電動AWD制御が可能になっている」と報告。これに加え、モーターによって内外輪のトルクを自在に操る「トルクベクタリング」機能によって旋回性能を高めたとし、「これによって高いレベルのヨーコントロールが可能となり、新世代のスポーツカーとして高いハンドリング性能を実現している」とコメントしている。
そのほか、シャシーについては軽量・高剛性を目指したとしてアルミとスチールを適材適所に配置したといい、世界初となる「アルミ アブレーション鋳造技術」「超ハイテン 三次元熱間曲げ焼入れ(3DQ)」を採用した。アルミ アブレーション鋳造技術は、フロントバルクヘッドに近いフレームまわりとリアバルクヘッドに近いフレームまわりという「車体剛性にとって最適な部位に配置」(大津氏)に、また超ハイテン 三次元熱間曲げ焼入れはAピラー部に採用していることが紹介された。
空力性能でのポイントは、高出力パワートレーンの熱マネージメントと高い空力性能の両立。新型NSXではインタークーラーやラジエーターに加え、9速DCT用クーラー、9速DCTギヤクーラー、TMU(ツインモーターユニット)クーラー、PDUクーラーなど、車体前後にさまざまな冷却デバイスを搭載する。また、最新の熱流体・空力解析技術(CFD)を用いた熱流体シミュレーションを行い、「フロント部の開口部から導入した空気をスムーズに排出することで高い熱マネージメントを成立させるとともに、空力性能も高い次元で両立させることができた」と述べるとともに、「NSXは高い動力性能や車両コントロール性能、そして環境性能を実現するシステムを搭載する」とアピールした。
一方、10月29日から一般公開が始まる「第44回東京モーターショー2015」(東京ビッグサイト:10月29日~11月8日)での公開が予定されている、新型FCV(燃料電池車)の紹介も行われた。
まず新型FCVで搭載される燃料電池スタックについては、従来の「FCXクラリティ」で搭載するものと比べ33%小型化することに成功し、コントロールユニットやモーターなどを含めて同社のV6エンジン並みの大きさとなり、エンジンフード下に配置することができたという。この技術により、バッテリーと2つの水素タンクの搭載位置の自由度が増し、大人5名が乗れる広々とした室内を実現したと説明。
また、水素の供給やモビリティから暮らしへの電力供給といった「水素をつくる」「水素をつかう」「水素とつながる社会」など、ホンダならではのスマートコミュニティの実現に向け、インフラ整備の取り組みを含めて研究開発を進めているという。このプレゼンテーションでは、FCV普及で障壁となる水素スタンドにおける取り組みについても触れ、コンテナサイズのパッケージ型スマート水素ステーション「SHS(Smart Hydrogen Station)」が紹介された。SHSは水素の製造から充填といった主要な機能をコンテナサイズの小型パッケージに収めた、簡単かつ安価での設置を可能にしたもので、「水素ステーションが近くにない地域でもSHSにより水素の充填が可能になり、水素社会の普及に貢献できると考えている」とコメントするとともに、新型FCVを2015年度中に発売することがアナウンスされた。
最後に紹介されたのは、先進の安全運転支援技術や自動運転について。
同社は「Safety for Everyone」コンセプトのもと、事故にあわない社会の実現を目指している。現在の社会は移動するうえでさまざまな課題があるとし、「例えば都市部では渋滞が深刻化し、都市間の移動では運転負荷軽減と交通流・輸送の効率化が求められる。また、地方の過疎地では高齢化が進み、移動困難者が社会問題になっている。ホンダは先進安全運転支援技術と、それを進化させた自動運転により、安全・快適・自由な移動を他の交通手段より優れた魅力で実現したいと考えている」と紹介。
考え方としては、まずは安全運転支援技術によって「運転して楽しいクルマへ進化させること」がベースにあり、そのうえで技術を進化させて危険回避性能と運転支援性能を極限まで高めた自動運転を実現することで、事故や渋滞といったクルマ社会の課題解決とともに、移動困難者という社会的課題に貢献したいとしており、「その結果としてすべての人に事故ゼロと自由な移動の喜びを提供したいと考えている」と大津氏はいう。
同社は2014年に新しい安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を発表。同システムはミリ波レーダーと単眼カメラからなり、前方安全として衝突軽減ブレーキシステム(CMBS)、誤発進抑制機能、路外逸脱抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、渋滞追従機能付ACC(アダプティブクルーズコントロール)、LKAS(車線維持支援システム)などを、側方安全としてレーンウォッチ、ブラインドスポットインフォメーションを、後方安全として後退出庫サポートなどを実現しているが、今回新たに発表されたのが「渋滞運転支援機能(Traffic Jam Assist(TJA)」となる。
これは高速道路上での車線維持支援システムであるLKASの作動速度域を低速まで拡大し、ACCと合わせることで車両停止から高速域までシームレスにドライバー支援が可能になるというもの。渋滞中は前方の先行車両により白線が見えづらくなることがあるが、独自のアルゴリズムにより白線認識をして低速域でのLKASを実現しており、「渋滞中のイライラからドライバーを開放し、肉体的・精神的ストレスを軽減することで安全運転に寄与する」と、その特長について語っている。
そして同社の自動運転技術についても触れ、「衛星測位技術と高精度地図によって自社位置を認識し、カメラ、レーダー、レーザーレンジファインダーで周辺車両や道路形状、障害物などを認識する。行動計画では走行する目標ラインを算出し、パワートレーン、ステアリング、ブレーキなどを統合的に制御し、目標ラインをトレースすることで安心・安全に目的地に向かって走行する」と主要技術について紹介。
そのなかから自動運転には「目標ライントレース車両制御」が必要とし、同社では算出された走行目標ラインや速度を制御して行動することを「行動計画」と呼んでおり、「行動を正しく計画しても車両制御が不安定では安心・安全を提供できない。車速が高くても正確にラインをトレースする車両制御によって安定した走行が可能になる」と、その必要性について説いた。
なお、大津氏からは、10月29日に行われる内閣府が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)-adusの実証実験に参画することが発表され、首都高湾岸線 豊洲~葛西間(約8km×2)で本線への進入、自動合流、レーンチェンジ、レーンキープ(立体交差)、自動分岐などを自動運転で実施する。これについては「途中衛星電波が受信できないようなアンダーパスやきついカーブ、レーンの数が多いコース、白線の途切れている個所などがあるが、こうしたさまざまな条件下でも安全に走行することを目標にしている。ホンダは2020年ごろの高速道路自動運転を目指して研究開発を進めている」としてプレゼンテーションを締めくくっている。
(Car Watch)