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2016年6月11日土曜日

小林麻央さんの乳がんはどれだけ深刻なのか

 歌舞伎俳優・市川海老蔵さんの妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが進行性の乳がんを患っていることがわかりました。市川さんが6月8日に会見を開いて明らかにしたもので、市川さんは小林さんのがんの詳しい進行具合については明らかにしませんでしたが、報道陣への質問には「比較的深刻。かなり(進行の)スピードが速い」「(現状は)手術をする方向に向かって、抗がん剤治療を行っている」などと答えています。

 乳がんは女性における部位別の罹患数(がんと診断される数)が最も多いがんとして知られています。

 ■2015年に新たにがんになった女性の数

 ・乳がん 8万9400人
 ・大腸がん 5万7900人
 ・肺がん 4万2800人
 ・胃がん 4万2200人
 ・子宮癌 3万人
 (国立がん研究センター調べ)

 一方で、大腸がん、肺がんなどよりも死亡に至る患者が相対的に少ないがんでもあります。

 ■2015年にがんで亡くなった女性の数

 ・大腸がん 2万3400人
 ・肺がん 2万1900人
 ・胃がん 1万7000人
 ・膵臓がん 1万6200人
 ・乳がん 1万3800人
 (国立がん研究センター調べ)

 本来、乳がんは早期発見で適切な治療を行えば、大腸がんや肺がん、胃がんなどの深刻ながんに比べると怖いがんではありません。しかし乳がんにおいては、この「適切な」治療という点に難しさもあります。それは「乳房を温存するか」「全摘出するか」という2つの方法があるからです。拙著『がんにならないのはどっち?』(あさ出版)でも触れていますが、乳がんの治療で「温存」と「全摘出」とでは、どのような違いがあるかについて解説します。■ 「温存」か「全摘出」か

 実は、がん治療にかかわる医師にも温存派、全摘出派がいて、受診する病院や担当医師によって、その意見が変わることもあります。最近の傾向では、全摘出する患者さんが増えているようです。これは温存手術のデメリットにスポットが当たってきているからでしょう。

 温存手術には「がん腫瘍だけを取り除く」「腫瘍の周辺を含めて取り除く」という2種類の方法があります。後者より前者のほうががん細胞を取り残す可能性は高いですが、後者についても取り残す可能性は十分にあります。この「がん細胞を取り残す可能性がある」ことが温存の大きなデメリットの1つです。

 乳がんは特殊ながんで、20年後、30年後に再発するケースがあり、その点でも、がん細胞を取り残すデメリットは計り知れません。また、温存手術は、放射線治療法や化学療法とセットで行うことが多いため、経済的にも時間的にも、患者さんの負担は大きくなりがちです。ほかにも、化学療法で抗がん剤治療を行う場合、卵巣機能に悪影響を及ぼすことが知られていて、それを懸念して全摘出を選ぶことが多くなっていると聞きます。

 がんには進行度合いでステージ「0」から「I」「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」までの5段階があります。「0に近いほどがんが小さくとどまっている状態で、Ⅳに近いほどがんが広がっている状態(進行がん)」(国立がん研究センターHPより)となっています。ステージⅢまででほかに転移していないことが条件となりますが、乳がん治療において全摘出術を選べば基本的にがん細胞を取り残すことはないのがメリットとして上げられます。一方、全摘出術のデメリットは、乳房を切除してしまうことによる精神的苦痛が大きいことです。

■ 早期発見ではない可能性も

 市川さんは会見で小林さんの乳がんが発見したきっかけは「人間ドックによって1年8カ月ほど前にわかった」と明らかにしています。発見からそれだけの時間が経っているにもかかわらず現段階でも手術を行っていないということは、おそらく早期のステージではないことが推測されます。報道などでわかっている情報や筆者の専門的な知見などから推察すると、がんが大きく広がってほかの部位にまで転移してしまっているステージⅣにまで進行している可能性もあるように見えます。

 ここからはあくまで一般論ですが、ステージⅣの段階になって遠隔転移が1カ所でも見つかった場合、がん細胞はその臓器だけに転移しているわけではありません。がん細胞の性質上、すでに体中に転移していることを意味します。別々の臓器で見つかった2つのがんを手術で取り除いたとしても、根治したとはいえず、それゆえ、今後は、手術や抗がん剤治療で体に負担をかけないこと、つまり“がんと闘わない”こともひとつの選択肢として考えられるでしょう。

 日本人にとってがんは、誰にとっても決して他人事ではありません。今、日本では、2人に1人がガンにかかり、3人に1人がガンで亡くなっているという現状があります。

 一方で、国立がん研究センターの予防研究グループが発表した「ガン発生とガン死の要因のうち、予防可能であったものの割合」によりますと、日本で発生したガンのうち、男性では半分以上(ガン発生の58%、ガン死の57%)、女性でも約3分の1(ガン発生の28%、ガン死の30%)が予防可能だったとされています。発症の多いガンですが、実はその半数近くが予防できることもまた事実です。

 もうひとつのデータを見てみましょう。「30~40%」。これは、日本におけるガン検診受診率の数字です。実は、日本のガン検診受診率は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している先進国の中で最低レベル。これだけ身近な病気にもかかわらず、検診対象者の半数以上が検診を受けていないのが現状なのです。

 あらためて、早期発見と予防の重要性を痛感するとともに、小林さんそしてご家族にとって最良の治療法が見つかることを願っています。
秋津 壽男
(東洋経済オンライン)

 他にも転移しているのだろうか。

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