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2015年11月1日日曜日

ロッシとマルケス、両王者の報復戦。マレーシアGPが史上最低のレースに。

 チャンピオンシップが大詰めを迎えた第17戦マレーシアGPは、僕のグランプリ転戦26年のキャリアの中で、これまで見たことがない史上最低のレースとなった。

 土曜日の予選を終えてトップグループはいつもの4人、トップからペドロサ、マルケス、ロッシ、ロレンソの順だった。

 決勝レースがスタートすると、優勝したペドロサと2位のロレンソのペースが2分0秒台の周回でトップ争いし、マルケスとロッシは3位争いにまわって、コーナー毎にポジションを入れ替えながら2分1秒台から2秒台で3周目を周回した。

 そのため3位争いのふたりは、ペドロサとロレンソに対して3周回ごとに1秒近いタイムをロス。事件が起こる1周前の6周目を終えたときには、2番手のロレンソとの差は2秒755に開いていた。

ロッシが「故意に」マルケスを転倒させた?
 11ポイント差でランク首位に立ち、残り2戦で今季のチャンピオンに手をかけていたロッシにしてみれば、3位争いでタイムを落とすことなく、一刻も早くトップグループに追いつきたい。だが、マルケスがしつこく絡んでくる。

 そのことに業を煮やしたのだろう。

 ロッシが「あいつは意図的にペースを落とした」と非難するマルケスに対して、7周目の右14コーナーでインに入って、マルケスの行く手を阻んだ。ロッシが何度か振り向いた後、突然マルケスが転倒した。

 ロッシはそのまま走り続け、3位でチェッカーを受けた。一方のマルケスは、右側のステップが脱落したため、再スタートするもピットに戻ってリタイヤとなった。

 この転倒事故に関し、審査委員会はロッシに対して次のような裁定を下した。

 「14コーナーでほかのライダーをラインから外すために故意にはらんだ結果、そのライダーと接触し転倒をまねいた。これはほかのライダーを危険にさらす無責任な行為と考えられ、競技規則に違反すると判断された。レースディレクションは3ポイントのペナルティポイントを科すことを決定した」
審査委員長は両者の責任を認めたが……。
 その裁定について、マイケル・ウエブ審査委員長は、次のようにコメントした。

 「素晴らしいレースが展開されていたように思われたが、残念ながら議論を引き起こすアクシデントで終わってしまった。ヤマハは今回の裁定に不服を申し立ててきたが、その申し立ては(上部審議機関の)FIM審査委員会が聞くことになる(その後、却下された)。

 事情聴取でそれぞれが何を言ったかをここでは言わないが、自分の印象を言わせてもらえれば、マルクは普通のレースをしていて、タイヤの感触が良くなって速く走れるのを待っていた。

 バレンティーノは、マルクが故意にレースのペースを遅くし、フェアで無い走りをしたという意見を持っている。

 双方の話を聞き、両者に責任があるというのが私たちの意見です。マルケスからは接触していないし、ルールは何も破っていない。しかし、彼の行動がロッシの反応を引き起こしたと思うし、残念ながらロッシはルールに反する方法で反応した」

 つまり、マルケスの転倒の責任はロッシにあるが、それを引き起こした原因はマルケスの走りにもある、ということだ。

 いずれにしてもロッシは、3ポイントのペナルティポイントが科せられたことで累計ペナルティポイントが4点となり、規定により最終戦バレンシアGPは最後尾からスタートすることになる。

 ここまでが、レース中に起きた事故とその直後の顛末である。
ロレンソ「多くの人が彼にリスペクトを失う」
 審査委員会の裁定が下った後、予定より遅れてMotoGPクラスの表彰会見が行なわれた。

 出席したのは優勝したペドロサと2位のロレンソのみ。ペナルティを科せられながら3位が確定したロッシは欠席した。

 席上、彼らはロッシとマルケスの事故について、レース後にビデオを見た印象を述べた。

 ロッシとチャンピオン争いをするロレンソは、過去に同様の事件を経験しているだけにロッシの行為を厳しく糾弾した。

 「幅寄せをして接触し、相手を見ながら足を出すというのは、このスポーツで許されることではない。僕だけではなく、多くの人が彼に対してリスペクトを失うと思う。スポーツマンシップに欠ける。彼は歴史上もっとも素晴らしいライダーかも知れないが、スポーツマンではない。彼に対しての考えを多くの人が変えることになる。これまでも彼は同じようなアクションをしてきたが、今日が一番ひどい」
ペドロサ「ふたりは試合前から熱くなっていた」
 ロッシとロレンソ、そしてチームメートのマルケスに対して、もっともニュートラルな位置にいるだろうペドロサはこう語った。

 「ロッシとマルケスのビデオを見たが、良くないことだ。チャンピオンシップのためにも、僕たちにとっても良くないことだった。ふたりはプレスカンファレンスやプラクティスからすでに熱くなっていた。

 問題のシーンは、インサイドにいるライダー(ロッシ)が主導権を握っているし、好きなだけアウトにいける。あのときはスピードを落としながらで、マルクもアクセルを戻した。その次にロッシの足が動くのが見えてマルクが転ぶ。なぜあそこで足が動いたのか、なぜマルクが転んだのか、もっとよく映像を見ないとわからないが、いいことではないということはわかった。とても残念なことだ。

 バレンティーノはここに来て、起きたことを説明するべきだ。バレンティーノはもっとも素晴らしいライダーで、キャリアもあり世界中にファンがいる。若いライダーから尊敬されているし、お手本になるような走りをしなければならない。みんな彼のやることを見ている。正しいことをしなければならない立場にいると思う」

ロッシ「僕は彼の挑発に反応しただけ」
 表彰会見が終わって数時間後、ようやくロッシの囲み会見が行なわれた。

 「マルケスは“それ”が真実ではないことを知っている。特にヘリからの映像ではっきりとわかる。僕は彼を転倒させようとしたのではなく、彼のタイムを落としたかっただけ。それで外側のラインを取り、スローダウンした。

 彼はオーストラリアGPよりも汚いレースをしたから、あのコーナーでは『バカ野郎、何やってるんだ』と言って彼の方を振り向いたんだ。

 接触した後、彼のハンドルバーが僕の左足に接触して足がペダルから外れた。ペダルが外れたとき、マルケスはすでに転倒していた。(この裁定は)フェアではない。マルケスは僕をチャンピオンシップから脱落させたかっただけで、その作戦がうまくいった。僕は彼の挑発に反応しただけ。僕は彼を蹴っていない。彼を転倒させようとも思っていなかった」
マルケス「蹴りを入れる行為は想像もできなかった」
 最後にコメントを出したマルケスは、はっきりとロッシを非難した。

 「彼は蹴りを入れたことを認めないだろうが、ビデオにすべてが映っている。レースだからアクシデントや接触は起きることだし理解できるが、レース中に蹴りを入れる行為は想像もできなかった。サッカーならレッドカードだが、ここでは3ポイントのペナルティだ。

 レース後彼に言われたことは、できれば言葉にしたくない内容だった。普通じゃない。

 彼は2度振り向いて、蹴りを入れた。それがビデオに映っている。今季もし彼がチャンピオンになったとしても、ふさわしいとは思えない。彼は今日のことを過去の出来事にするだろうけど、バレンティーノとの関係は変わっていくだろう」

 これが、マレーシアGPの決勝レースが行なわれた10月25日に起きたことのすべてである。
ふたりの元王者が“泥仕合”に。
 ここから先は、僕の意見である。

 まず、マルケスがロッシの走りをペースを落として妨害したかどうか、という点について、ふたりがバトルを繰り広げた最初の数周については、その通りだろう。

 しかし、ロッシの「彼の挑発に反応した」という言葉通り、事故が起きる前の数周はマルケスの走りに対抗して、まさに“泥仕合”へと発展していた。そして、14コーナーで事故が起きたのだ。

 前回のコラムでも書いたが、前戦オーストラリアGPは、マルケス、ロレンソ、イアンノーネ、そしてロッシの順でフィニッシュした。レース中に4人の選手が抜き合った回数が52回で、過去最高のレースだと言われた。

 しかしこのレースについて、ロッシがマレーシアGPの開幕前日のプレスカンファレンスで「マルケスがロレンソの味方をした」と語り、波紋を呼んでいた。そして、「本当のことを言われたことにマルケスは怒り、さらにひどいレースをしてきた」というのがロッシの言い分である。

 「マルケスがロレンソの味方をした」という部分については、もしそうだったとしても、リザルトを大きく左右するものではなかった。
マルケスは誰よりも優れた車幅感覚を持っている。
 しかし、マルケスに邪魔されたと確信したロッシは、「マルケスがアルゼンチンGPの接触を恨んでいるからだ」ともコメントしている。それを受けてマルケスが、「わかったよ。それなら、サポートするっていうのはどういうレースか見せてやろうじゃないか」と思い込んだとしても不思議はない。
 一方のマルケスは、ある時期までロッシをヒーローだと言い続けてきた。しかし、今年の第3戦アルゼンチンGPで起きた接触事故を境に、彼にとってロッシはヒーローではなくなっていた。

 その事故とは、コーナーの立ち上がりでラインを変えたロッシの後輪にマルケスのフロントタイヤが接触し、あっという間に転んだというものだ。

 当時も議論沸騰となったが、その接触事故は単なるライン変更だけではなく、ロッシが意図的にアクセルを戻し減速したのが原因ではないかと思う。誰よりも優れた車幅感覚をもっているマルケスが簡単に接触するわけがないからだ。
ロッシはロレンソとの戦いに集中すべきだった。
 もちろん、証拠はない(走行データを見れば一目瞭然だが)。真相はコース上で戦う者しか知り得ないことであるが、ヒーローとあがめたロッシとの信頼関係を失うに十分なダーティで危険な走りだったとしたら、マルケスがロッシをチャンピオンにさせたくないと思ったとしても不思議ではない。

 それにしても、実に嫌なレースだった。

 ロッシはロレンソとの戦いに集中したかったというが、僕もそうするべきだったと思う。一方のマルケスは「ロッシのいう、ロレンソをサポートするレース」を見せつけたのだろう。

 そして、スピードに優るマルケスの嫌がらせに(スピードがあれば、ロッシはさっさと前にいけたはず)腹を立てたロッシが、7周目の14コーナーでその報復に出たというのが今回の結末である。
「ナイスレース」に「ナイスキック」。
 いま世界中の論議は、蹴ったか蹴らなかったかに集中している。

 ドルナが提供するさまざまな角度からの映像を見る限り、僕は蹴ったと確信する。審査委員会は蹴ったとは断言していないが、「バレンティーノ・ロッシが故意に接触した」という言葉を使った。言うまでもなく、コース上で“意図的”に相手を転ばせるというのは重犯罪であり、決してやってはいけない行為である。

 これまでロッシは、ファイティングスピリッツにあふれる素晴らしいレースを数多く見せてくれた。もっとも成功してたライダーであることは間違いないが、その一方で、もっとも多く後味の悪いレースをしてきたのも事実だ。

 蹴ったか蹴らなかったのか。両者の言い分は完全に食い違う。

 事情聴取に呼ばれたふたりが交わした言葉は、ロッシの「ナイスレース」に対し、マルケスは「ナイスキック」だったそうだ。

 天才ライダーふたりの泥仕合。まさにマルケスの復讐とロッシの報復は、ロッシの反則技で最悪の結末を迎えることになった。

 最終戦、ロッシはロレンソと7点差のランク首位を保ったまま最下位からスタートする。

 さらなる波乱は起こるだろうか。
(「モーターサイクル・レース・ダイアリーズ」遠藤智 = 文)

 チャンピオン争いに関係ないマルレスの妨害だろう。

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