知恵蔵2015の解説
歴史認識
第2次世界大戦に至る過程と大戦そのものをどのように認識するのか、という問題。1993年に細川護煕首相が「過去のわが国の侵略行為や植民地支配など」が多くの被害を与えたことを深く反省しお詫びの気持ちをもつ、と初めて明確に表明した。95年8月15日、村山富市首相は「首相談話」で「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を進んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」と述べた。この認識が橋本龍太郎内閣、小渕恵三内閣にも踏襲された。2001年に入り、歴史認識の具体的問題といえる教科書問題と靖国神社参拝問題が浮上、中韓との関係は冷却化した。教科書問題はすでに1982年に起きており、文部省(当時)は検定基準に「近・現代におけるアジア諸国との関係の記述について配慮する」という近隣諸国条項を加えていた。2001年の教科書問題は、「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された中学歴史教科書(扶桑社)を中心に、日本側の歴史認識に対して韓国・中国が反発した。特に(1)自国賛美、(2)過去(侵略と植民地支配)の過ちの軽視、(3)支配された側への感性のなさ、(4)対話を不可能とする独善性、などが問題視された。同社の教科書の採択率は低い。
(高橋進 東京大学大学院法学政治学研究科教授 / 2007年)
(高橋進 東京大学大学院法学政治学研究科教授 / 2007年)
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最近の歴史認識発言
安倍首相は4月、植民地支配と侵略への反省を表明した村山談話について「そのまま継承しているわけではない」「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べた。5月には自民党の高市早苗政調会長が「侵略という文言を入れているのはしっくりきていない」と村山談話を批判した。また、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は「慰安婦制度が必要なことは誰だってわかる」などと発言。同じ共同代表の石原慎太郎衆院議員は「あの戦争が侵略だと規定することは自虐でしかない。歴史に関しての無知」と述べている。
(2013-06-28 朝日新聞 朝刊 長野東北信 1地方)
(2013-06-28 朝日新聞 朝刊 長野東北信 1地方)
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【東京】安倍晋三首相は最近、戦時期の歴史を再考すべきとの考えを一段と強く打ち出し、閣僚の靖国神社参拝に対するアジアの近隣諸国の批判に反論した。だが、その発言が中韓両国との関係をさらに悪化させている。
安倍内閣の閣僚による靖国神社の参拝を受けて近隣諸国の感情が高ぶるなか、同首相は日本が第2次世界大戦中にアジア周辺国への攻撃や支配が「侵略」に当たるのか疑問を投げ掛け、周辺国の神経を一層逆なでした。
同首相は23日の国会答弁で、「『侵略』という定義は学会的にも、国際的にも定まっていない」と述べた。1995年に当時の首相が出した植民地支配を謝罪する談話(いわゆる村山首相談話)を支持するかとある議員が質問したのに答えた。安倍首相は「国と国との関係で、どちら側から見るかで違う」と付け加えた。
状況は極めて険悪になっており、韓国外務省は25日、日本の駐韓大使を呼び、この安倍発言への公式な抗議を表明した。韓国の外相は先週末の閣僚らによる靖国参拝を受け、この3日前に東京への訪問を取り止めたばかりだ。
韓国外務省の報道官は25日、「日本、日本政府、そして政治家たちから歪曲された歴史認識や時代錯誤な発言が相次いでおり、これに強い遺憾の意を表明した」と述べ、「日本の指導者が植民地支配と侵略を誠実かつ謙虚な姿勢で反省し、時代錯誤な認識と発言を矯正するよう期待する」と付け加えた。
日本は1910年に韓国(大韓帝国)を正式に併合し、1945年の第2次大戦の終了まで朝鮮半島を占領していた。
安倍首相や側近である閣僚たちの行動や発言が国外で反感を呼んでいるが、高い人気を持つ同首相は支持者に対し、自らの姿勢を支持するよう訴えかけている。同首相の秘書は24日の国会答弁の動画を同首相が持つフェイスブックの公式ページに投稿した。そこには同首相が閣僚や国会議員には靖国参拝の権利があると熱心に擁護する様子が映し出されている。靖国神社は近・現代の戦争で亡くなった200万人以上の犠牲者とともに、戦犯が祭られている。
この投稿にはすぐさま、同首相の姿勢に拍手を送る保守的な支持者から何千件もの称賛の声が寄せられた。ある支持者は、「総理の発言に感動した人々はたくさんいる」と書き込んだ。別の支持者は、「77歳になるわたしの母親は、(靖国神社について)他の歴代総理が言わなかったようなことを言ってくれたと感謝している」と書いた。
24日の国会答弁で、野党議員は閣僚の靖国参拝による影響について安倍首相に尋ねた。同首相は「国のために尊い命を落とした英霊に対し、尊崇の念を表するのは当たり前だ。わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」と答えた。
安倍首相は「それ(靖国参拝など日本が戦死者に敬意を払う権利)を削れば関係がうまくいくという考え方は間違いだ」と指摘し、昨今の中韓両国の対日批判には、国内政治上の動機があるとの見方を示唆した。
安倍内閣の閣僚は、政府当局者としてではなく、私人として靖国神社を参拝したと述べているが、中国政府はそういった区別を認めていない。中国外務省の華春瑩副報道局長は24日、「日本の指導者がどのように、そしてどのような肩書きで靖国神社を参拝するかは問題でない」と話し、「われわれには日本が軍国主義的な侵略の歴史を事実上否定しているように感じられる」と付け加えた。
先週末には麻生太郎副総理・財務相を含む安倍内閣の閣僚が春の例大祭に合わせて靖国神社を参拝し、23日にはさまざまな政党に所属する168人の議員が参拝した。1989年以来最多の議員参拝だった。
安倍首相は強力な防衛政策と日本の戦時中の歴史の再考を支持していることで広く知られる。2006年—07年の第1次安倍内閣は、日本の平和憲法の改正を優先しようとしたことも早期退陣に追い込まれた理由の一つとみられている。
同首相は昨年末に首相に返り咲いたが、同じ過ちを犯さぬ決意から、最近までナショナリスト的見解をほぼ隠してきた。つまり閣僚の足並みをそろえ、経済問題に重点を置いていた。
しかし、ここに来て同首相は、70%前後に達する高い支持率と、新たなインターネット上の支持層に意を強くし、ますます個人的なアジェンダ(目標、政策課題)に焦点を当てようとしているようにみえる。
ただし、一般市民にその変革を受け入れる用意があるかどうかは別の問題だ。朝日新聞が16日に公表した世論調査によると、回答者の50%が安倍首相の経済政策を支持したものの、同首相の外交・安全保障問題へのスタンスを支持したのはわずか14%だった。憲法に関するスタンスについては、6%しか支持していない。
政府によるアジェンダの方向転換を懸念しているのは安倍首相に対する批評家だけではない。同首相に近い閣僚すら懸念を抱いている。
例えば麻生副総理は、自らの靖国参拝の2日前の19日のインタビューで、「経済を先にするという方向に考えないといけないと私自身は思っている」と述べ、参院選で自民党が勝利した場合、首相の関心が教育や憲法改正などに向かうのではないかと懸念していると述べた。
しかし、安倍首相はそこまで待たないかもしれない。同首相は最近の読売新聞とのインタビューで、憲法改正が参院選の焦点になるだろうと語っている。
(ウォール・ストリート・ジャーナル)
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