■会見、「カネ」にまつわる質問相次ぐ
「歴史の書物が書かれるときがあるなら、この試合はそれに値するだろう」。1万6507人の観客がすべていなくなったMGMグランド・ガーデンアリーナにつくられた試合後の記者会見場。メイウェザーはキャリア最大の勝利に胸を張った。初回からパッキャオを左ジャブで突き放し、相手の打ち終わりに合わせる右カウンターもさえ渡った。
4回に左ストレートを痛打され、6回にはボディーを連打されてコーナーに詰まったが、「スマートに計算して戦った」とメイウェザー。7回からは再びアウトボクシングで打ち気にはやるパッキャオをコントロールする。パッキャオも必死にプレッシャーをかけ続けたが、最後までメイウェザーの牙城は崩れなかった。採点は118―110が1人、116―112が2人と明白な差がついた。会場はパッキャオサポーターや熱戦を期待したファンからのブーイングに包まれたが、自ら「ザ・ベスト・エバー(史上最高)」と名乗るディフェンスマスターの本領発揮ともいえる快勝だった。
記者会見では試合内容やパッキャオに関する質問に負けないくらい、「カネ」にまつわる質問も相次いだ。両者が今回手にするファイトマネーはそれぞれメイウェザーが1億2000万ドル、パッキャオが8000万ドル。興行収入次第ではメイウェザーが1億8000万ドル、パッキャオが1億2000万ドルに届くともいわれる。「賢いだろ。5年前ならこちらの取り分は5000万ドル、パッキャオは2000万ドルにすぎなかったんだから」とメイウェザー。その言葉は「あと5年早く実現していたら、もっと好ファイトになった」というファンの思いとは相いれないものだが、そのビジネス感覚は単なるボクサーの域を超えている。
■ボクシングのPPV放送に批判的な声
両者の報酬の多くを稼ぎ出したのが「ペイ・パー・ビュー(PPV)」と呼ばれる米国のテレビ課金視聴料だ。今回はHBOとショータイムという大手ケーブルテレビ2局が共同制作した。その視聴料は89.95ドル(高画質では99.95ドル)。米メディアは購入件数が300万件、売り上げは3億ドルをそれぞれ超えるのは確実と報じている。いずれも過去の最高記録(購入件数248万件、売り上げ1億5200万ドル)を更新するのは間違いない。
カジノとのタイアップ、劇場中継(クローズド・サーキット)など数々の興行手法を編み出してきた米ボクシング界で、PPVが定着したのは1990年代から。元統一世界ヘビー級王者マイク・タイソン、史上初の6階級制覇王者オスカー・デラホーヤの試合がPPV放送され、巨額のファイトマネーを生み出してきた。
テレビ番組を無料で見るのが当たり前の日本からすると、前座を含めても3試合ほどに数十ドルを払って視聴するのは考えられないだろう。米国のテレビ視聴世帯数は1億1640万世帯。このうち、約9割の世帯がケーブルテレビに加入する。だが、テレビを有料で見ることに抵抗の少ない米国人にとってさえも、PPVは決して普通に手を伸ばせるサービスではない。
米国のプロモーターたちはコアで熱心なファンにターゲットを絞り、PPV放送される魅力的なカードのマッチメークを仕掛けてきた。だが、ビッグイベントの収益源となるPPV放送について、批判的な声が増えてきている。創刊93年の歴史を誇る米ボクシング専門誌「リング」の最新号でも、マイケル・ローゼンタール編集長は「PPVはボクシングにとって危険なビジネスモデルだ」と書いている。一般のファンは数十ドルも払ってボクシングを見ようとしてくれない。PPVはボクシングを一般大衆から遠ざけ、マニアだけのスポーツ、マイナースポーツにしてしまったという声が多いのだ。
■「ネットワーク」での中継、久々復活
実際、変革の動きが出てきている。日本の地上波にあたる「ネットワーク」でボクシング中継が久々に復活したのだ。3月7日には3大ネットワークの一つ、NBCがラスベガスで行われた世界タイトルマッチを生中継した。同局にとって30年ぶりのボクシング中継で340万人の視聴者数をマークした。全米のボクシング中継としては17年ぶりの高い数字だった。同局は4月11日に早くも2回目の中継を実施。2015年は11回の興行を放送予定で、傘下のケーブルテレビ局NBCスポーツも含めると20回を放送するというから、力の入れようがうかがえる。
今回のネットワークにおけるボクシング中継復活には影の仕掛け人がいる。メイウェザーのアドバイザー(代理人)で知られるアル・ヘイモン氏だ。ハーバード大出身で元音楽プロデューサーの肩書を持つアフリカ系米国人の実業家は、一昨年頃から数多くのトップボクサーと次々に契約を結んだ。これらの選手を登場させるべく、NBCに続いて同じく3大ネットワークのCBSとも放送契約を締結。さらにHBOやショータイムよりも安価で加入世帯の多いケーブルテレビのESPN、スパイクTVなどとも契約を結んだ。
ヘイモン氏はメディアの取材を受けず、ほとんど人前に姿を見せない謎の多い人物だけに、「フィクサー」として眉をひそめる向きも多い。ただ、ボクシング人気復活のために、まずは一般大衆への浸透を取り戻すという発想自体は至極まっとうといえる。というのも、メイウェザーとパッキャオ以外にスーパースターと呼べるボクサーがなかなか育っていない現実があるからだ。
■両雄の後継スター、簡単に見つからず
世紀の一戦を終えた今、38歳のメイウェザーが「もうそろそろ40歳になる。次がラストファイトだ」と引き際を語り、36歳のパッキャオもキャリアの終焉(しゅうえん)が近づいているのは間違いない。だが、両雄からバトンを引き継げるスターはそう簡単には見つからない。
今ならミドル級で13連続KO防衛を続けるゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)やメキシコの若きスター、サウル・アルバレス、ライトヘビー級3団体統一王者のセルゲイ・コバレフ(ロシア)らがいるが、いずれもボクシング界でのみ名を知られた存在だ。13年と14年の2年間に米国でPPV放送されたカードは全部で11回。そのうちメイウェザーとパッキャオで7回を占めることからも、両者が突出したスターであることが分かる。
米ボクシング界は長らく、パッキャオのプロモーターであるボブ・アラム氏のトップランク社が業界をリードし、テレビ放送はHBOとショータイムの2大ケーブルテレビ局が好カードを独占してきた。こうした寡占体制に今、風穴が開けられようとしている。ヘイモン氏のほかにも、ラッパーでプロデューサーとしても著名な音楽界のビッグネーム、ジェイ・Z(歌手ビヨンセの夫)が今年からプロモーター業に参入するなど、新しい風が吹き始めている。
今回のメイウェザー対パッキャオ戦は、そんな変革の端境期にあったエポックメーキングという捉え方もできるだろう。世界のボクシングをリードしてきた米国がどこに向かうのか、宴(うたげ)のあとにも注目が集まる。
(日本経済新聞)
今回の世紀の一戦が、ボクシングを、マニアだけのマイナースポーツにしてしまったのか。
最近、ボクシングは、日本では、マイナースポーツで人気が低迷している。
メイウェザー対パッキャオ戦も、ほとんどの人は、興味がないんだろう。
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