総務省の5月の家計調査で、1世帯当たりの消費支出が実質で前年同月比4・8%増となった。プラスは昨年4月の消費税増税から初めてだ。
これで増税による反動減から立ち直ったと楽観することはできない。消費は依然、力強さを欠いている。
気になるのは中低所得者層を中心に暮らし向きが悪くなると感じている人が多いことだ。
この背景には円安に伴う物価上昇もあり、日銀が掲げる2%の物価上昇目標は、家計の負担能力にも十分に目配りする必要がある。
4・8%という増加は、数字としては高率だ。しかし、比較の対象となる前年同月、すなわち昨年5月のデータを見ると評価は変わってくる。
1世帯当たりの消費支出は、前年同月比で8・0%も落ち込んでいた。5%から8%への消費税増税の影響をもろに受けた月だった。
その月と比べて4・8%増えたといっても、そもそも基準点が下がっているから額面通りの評価はできない。
問題は今回のプラス転化を一時の現象ではなく、確かな回復基調につなげられるかどうかだ。
この点、内閣府が先に発表した5月の消費者態度指数は、はっきりとした課題を提起する。
この指数は消費者心理を示しているが、5月は41・4で前月比で0・1ポイント低下した。景気回復を実感できるとされる50とは開きがある。
この調査は人々の「暮らし向き」を所得別に問うている。
「やや悪くなる」「悪くなる」の合計は、年収1200万円以上だと16・1%。それが400万~550万円だと33・1%、300万円未満だと51・4%にもなっている。
低所得層にも「良くなる」「やや良くなる」との回答はあるものの数は少なく、全体としては生活の先行きに根強い不安感がある。
総務省が発表した5月の消費者物価指数は、前年同月比で0・1%上昇した。24カ月連続の上昇となったが、消費者態度指数からは、物価上昇に賃金の改善が追いついていない世帯が多いという現実が浮かび上がる。
これでは「景気回復の温かい風を全国津々浦々に届ける」という安倍首相の言葉もうつろに響く。日銀の物価目標も、数値を追うばかりでなく、家計の実態を見極めることが大切だ。
(高知新聞)
円安による物価上昇で、庶民の生活は苦しいが、円安による恩恵を受けている輸出企業やインバウンド関連は好況なんだろう。