「シビック TYPE R」は1997年、6代目「シビック」をベースとしたモデル(EK9)が初めて登場した。以降、7代目ベース(EP3)が2001年に、8代目ベース(FD2)が2007年に、そして8代目欧州仕様ベース(FN2)が2010年に販売されている。日本ではベースモデルの「シビック」がすでに販売されていないため、今回の「シビック TYPE R」は久しぶりの復活といったイメージがあるが、じつはそうではない。これまで通り、5年前後のペースで新型が登場したにすぎないのだ。
では、なぜ今回の「シビック TYPE R」が大きな反響を呼んでいるか? ひとつにはスポーツカー人気が再燃しつつある絶好のタイミングで登場したことから、注目度が増したといえるだろう。ホンダは今年、「S660」を発売し、来年には新型「NSX」が米国で発売される。その間に登場した「シビック TYPE R」によって、スポーツカーメーカーとしてのホンダが帰ってきたとの印象が決定的となった。
ホンダ以外のメーカーを見ても、マツダは今年、新型「ロードスター」を発売。ほかのラインアップもほぼすべてのモデルでスポーツ性を強調しており、販売を大幅アップさせている。トヨタ・日産も今年の東京モーターショーにて、スポーツカーのコンセプトモデル「S-FR」(トヨタ)・「コンセプト2020 ビジョン グランツーリスモ」(日産)を発表し、大きな注目を集めていた。
スポーツカー復権の背景には、景気の回復やガソリン価格の低下がある。ただ、海外に目を向けると、世界的に景気が悪化し、ガソリン価格が高騰していた時期でも、欧州メーカーは走りにこだわったモデルを途絶えさせず作り続けてきた。いま、そうしたモデルが日本でも人気を集め、欧州の輸入車ブランドはいずれも日本での販売が急増している。現在、日本メーカーがスポーツカーに力を入れているのは、エコカー一辺倒に集中しすぎた反省という側面もあるといえるだろう。
従来の「シビック TYPE R」とは一線を画す性能、世界最速の称号も獲得
新型「シビック TYPE R」が注目を集めているもうひとつの理由は、単純にこのモデルがきわめて高性能であるからだろう。
エンジンのパワーだけを見ても、6代目ベースの最初の「シビック TYPE R」は185PSで、そこからモデルチェンジごとにパワーアップし、2007年に登場した8代目ベースは225PSとなっていた。それに対して、今回登場した新型「シビック TYPE R」は310PS。ホンダ自慢のVTECエンジンに直噴ターボを組み合わせ、飛躍的なパワーアップを実現した。
もっとも、2.0リットルのエンジンで300PS以上を発揮するエンジンは、現在では珍しくない。それより注目すべきなのは、絶対的なパワーよりも自然吸気ならではの官能的な吹け上がりや高回転の伸びを信条としてきたホンダのVTECが、ついにターボを搭載し、パワー競争の流れに乗ったということ。古くからのホンダファンにとって大事件だろう。
さらに、新型「シビック TYPE R」は「世界最速」という具体的な目標の下、開発されている。これもいままでの歴代モデルにはなかったことだ。ここでいう「世界最速」とは、「FF」で、という意味。そしてその判定は、世界中のスポーツカーのテストコースとなっているニュルブルクリンクサーキットのタイムによる。
これまで、FF世界最速の座には、ルノー「メガーヌ・ルノースポール トロフィーR」が君臨してきた。2014年6月にニュルブルクリンクのFF最速タイムとなる7分54秒36を記録したのだ。このモデルは日本でも鈴鹿サーキットでタイムアタックを行うなど、その速さを最大限にアピールしている。
一方、新型「シビック TYPE R」は今年3月に7分50秒36を記録。開発目標のFF世界最速を見事に達成した。ちなみに、このタイムはホンダ「NSX-R(NA2)」やスバル「インプレッサ WRX STI(GVB)」、日産「スカイライン GT-R(R34)」よりも速い。いずれも古いモデルなので単純比較はできないとはいえ、FFでこれらのモデルを上回っているのは驚異的だ。
このように注目に値するだけのパフォーマンスを備えている「シビック TYPE R」なのだが、その国内販売がわずか750台限定というのはちょっと寂しい。この際、「TYPE R」に限らずベースの「シビック」も含めて、日本で通常モデルとしての販売復活は望めないものか。名古屋モーターショーの折、ホンダのスタッフに聞いてみたが、その予定はまったくないとのこと。しかし熱望している人は多いはずだ。
(マイナビニュース)
欲しい者がいれば、作って売るのが、ホンダイズムだろう。
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