欧州で人気のディーゼルエンジンは、日米などで一般的なガソリンエンジンに比べて燃費性能が高い。他方で窒素酸化物(NOx)など有害物質の排出量が多く、排ガスをいかにきれいにするかが年来の課題となってきた。
特に米国では規制が日欧と比べても厳しい。それをクリアするためVWは、排ガス試験の時だけエンジンの動作を調整して有害物質を減らす違法なソフトを使っていたという。実際の走行時には規制値の最大40倍のNOxをはき出していたそうで、言語道断だ。
エンジンの開発には、排ガス浄化を徹底すると燃費や走りの性能が落ちるという二律背反がつきまとう。VWは違法ソフトで排ガスをきれいにしたと見せかけ、同時に車選びの決め手となる燃費やエンジン出力の数値も引き上げたようだ。NOxの大量排出は健康被害につながる。罪は大きい。
VWが1兆円近い特別損失を早々と計上し、それを原資に対策に取り組むと表明したのは、事態の早期収拾に向けたシグナルとして評価できる面もある。とはいえ、信頼回復への道のりは長い。
まずは不正の範囲をはっきりさせ、リコール(回収・無償修理)などの対策を迅速に進めることが肝要だ。現時点の対象車は米当局の指摘した48万台強だが、他の車種や米国以外で不正がなかったのか、早く確定する必要がある。
他のメーカーにとっても「対岸の火事」ではない。「他社もやっているのでは」と疑う人は、当然いる。社会からの信頼を回復するため何をすべきか、自動車産業全体で考えるときだ。
日本を含む各国当局は、VW車に限らず自国を走る車が本当に環境基準に適合しているか、いま一度チェックすべきだろう。
事件の波紋がどこまで広がるか注視する必要もある。一つはディーゼル車全体に逆風が吹くかどうかだ。パリでは市中心部の大気汚染がひどく、ディーゼル車の走行に制限を加える動きもある。欧州勢が得意とするディーゼル車が失速すれば、世界の自動車市場の勢力図が変わる可能性もある。
VWはドイツの製造業の要ともいえる企業で、好調な同国経済への影響にも目をこらしたい。
(日本経済新聞)
ディーゼル車失速で、日本車のシェアが拡大するか。
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